産業医の手引き<ダイジェスト>
3章:健康診断の種類と事後措置の実務

3 基礎疾患(てんかん、心疾患、不整脈など)や服用薬を考慮した適正配置と就業条件

土肥 誠太郎

要旨

Ⅰ.安衛法に基づく産業医が行う就業上の措置の基本的枠組

基礎疾患を有する労働者の就業上の措置に関する意見を産業医が述べる場合、産業医が、主治医に就業適性についての意見を求めることになる。この場合、依頼状などに作業環境(有害業務を含む)・作業負担・就業状況について主治医が理解できるように記載することが適切である。また、医療機関からの情報提供書や意見書には、産業医が理解して本人や事業者に対する助言や指導に活用できる内容が優先順位をもって記載されていることが望まれる。

Ⅱ.就業上の措置の目的

就業上の措置の目的は、次のような類型に分類でき、多くの場合、目的は複合している。

①就業が疾病経過に影響を与える場合(病状悪化リスクの低減)、②事故・公衆災害リスクの予防(本課題に重要):現在の業務が直接健康障害に直接起因はしないが、個人の症状の出現によって現在の業務内容や環境などのより周囲を巻き込む災害または本人の生命に大きな危機が生じる可能性がある場合、③健康管理、④企業・職場への注意喚起・コミュニケーション

Ⅲ.個別の疾患等に関する就業上の措置

(1)てんかん
1)病状悪化リスクの低減:治療薬の血中濃度の安定性及び睡眠の確保の観点から、深夜勤務や交替勤務や長時間労働に関して制限を設けることが適切であろう。
2)事故・公衆災害リスクの予防:日本てんかん学会は「てんかんに係る発作が投薬なしで過去5年間なく今後も再発のおそれがない場合を除き、通常は大型免許及び第二種免許の適性はない」としている。事故・公衆災害リスクの予防として最低限これらの基準を守ることが適切と考える。
3)てんかん治療ガイドライン2010では、てんかん患者で運転免許が許可される基準があり、このような場合一定のリスクが許容されると考えられる。具体的には、有害物質を少量のみ取り扱うような研究実験作業、調理等の作業、運搬作業、小型機器の運転作業などが考えられる。

(2)不整脈を原因とする失神(植込み型除細動器(「ICD」)を植え込んでいる場合を含む)
「ペースメーカ、ICD、CRT(心臓再同期療法)を受けた患者の社会復帰・就学・就労に関するガイドライン(2013 年改訂版)」及び「不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討委員会ステートメント 改訂のための補遺2(ステートメント)」があり、てんかんの場合と同様に就業上の措置の参考になる。

Ⅳ.運転士や操縦士の身体検査

鉄道運転士の身体合格基準、航空身体検査における身体検査基準などにも留意が必要である。

法令・制度等

航空法令・規則、航空身体検査マニュアル、自動車運転免許に関する規定「一定の病気等に係る運転免許の可否等に関する判断基準の運用について」、てんかん診療ガイドライン2018第18条 CQ18-2、道路交通法第66条、鉄道運転士の身体合格基準、安衛法令則

キーワード

就業上の措置、てんかん、不整脈、ペースメーカ、ICD、CRT、事故・公衆災害リスク、鉄道運転士、身体合格基準、航空身体検査基準

本篇ダウンロード(医師会員向けページ)

本篇PDF

PAGE TOP