産業医の手引き<ダイジェスト>
2章:産業医活動に役立つ産業保健機関や専門職との連携

5 地域産業保健センターの実際 ―大田地域産業保健センターのモデル事業を通して―

正林 浩高

要旨

1989(平成元)年に「地区労働衛生相談医制度モデル事業」に羽田鉄工団地が選ばれ、大森・蒲田・田園調布の三医師会が協力して運営する大田地域産業保健センターを設置した。1993(平成5)年度には東京都内第一号のセンターとして事業を開始し、京浜島工業団地にも相談窓口を追加した。2003(平成15)年4月には「ものづくりのまち」という地域特性を活かして医師会と大田区役所が緊密に連携し区役所2階の区民相談室で毎週木曜日に登録産業医による「健康相談」事業が実現し、現在も実施している。

2019(令和元)年度に全国に先駆けて大田地域産業保健センターが取り組んだ小規模事業場を対象とした新たなモデル事業「通院時産業保健相談業務」について紹介する。

(1)治療と仕事の両立支援と小規模事業場の課題
常時使用する労働者数50人未満の事業場(以下「小規模事業場」)は、民間事業所の97%を占め、全労働者の57%が就労している。それらの小規模事業場は、財政基盤が脆弱で、産業保健意識が低く、産業保健専門職の関与が薄いなどの課題がある。例えば、働き方改革実行計画には病気の治療と仕事の両立支援事業が挙げられているが、小規模事業場の殆どで産業医が選任されていないため、医療機関との連携・協力体制が整っておらず、大企業との産業保健レベルの格差拡大が危惧されるところである。

(2)地域産業保健センターにおけるモデル事業立ち上げの経緯
独立行政法人労働者健康安全機構から、小規模事業場に対する新たな産業保健サービスに関するモデル事業に取り組むことについて大田地域産業保健センターに協力の依頼があり、東京産業保健総合支援センター、東邦大学医療センター大森病院、東京労災病院及び大田区内の三医師会の参加を得て、「大田地域産業保健センターモデル事業協議会(仮称)」を開催した。そこで「中小企業における産業保健活動活性化モデル事業」の実施が決まり、具体的内容はワーキンググループを立ち上げて協議を重ねて、モデル事業として「通院時産業保健相談業務」がまとめられた。

(3)通院時産業保健相談業務
本事業では、小規模事業場の労働者である患者からの希望で、一定の講習を受けた産業医である主治医が、診療の合間に事業主への意見書を作成することを可能としている。患者の状況をよく知る主治医が自分の医療機関において対応できるメリットがある。大田地域産業保健センターのモデル事業として症例を積み重ねて、問題点や改善点を洗い出し、いずれは全国の地域産業保健センターの事業に拡大されることを期待する。

法令・制度等

安衛法(第13条の2)、産業保健活動総合支援事業実施要領、がん対策推進基本計画、働き方改革実行計画

キーワード

地域産業保健センター、産業保健総合支援センター、産業保健(活動総合)支援事業、独立行政法人労働者健康安全機構、地区労働衛生相談医モデル事業、小規模事業場、治療と職業生活の両立支援事業、療養・就労両立支援指導料、通院時産業保健相談業務

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