産業医の手引き<ダイジェスト>
1章:産業医活動の基礎

8 職場アセスメントの基本 §1 産業医に必要な安全の知識

山本 健也

要旨

職場は生産活動を円滑に行う目的で設計され危険有害要因が存在する「非日常的」な環境であることが前提である。産業医業務は「安全」との直接的な関与は少ないと思われがちであるが、労働者の健康状態はときに事故の原因に直結すること、また近年の労働者の高年齢化など労働力の維持向上に向けた関心の高まりを背景に、産業医が「安全」に積極的にかかわる必要性が拡大している。また、安全をテーマにしたコミュニケーションは、職場との信頼関係を構築する際にも役に立つ。

Ⅰ.事業者責任としての安全配慮義務

事業者には、作業をする従業員の安全を守るための義務(安全配慮義務)が課されている。事業者は単に法規や社内規則などを守るだけではなく、「予見可能な危険」の把握、及びそれを回避するための対策を、合理的に実施可能な範囲において実施することが求められており、産業医がそのための意見や勧告をする場面も増加している。

Ⅱ.職場における安全への取り組みを知る

事業場では、従来から安全にかかわるさまざまな活動を実施していることが多く、そこから学べることは多い。法規などで規定されている「安全管理体制の構築」「職場巡視」「安全教育」などの他、さまざまな小集団活動(KYT活動、5S活動、ヒヤリハット報告、改善提案活動、ツールボックスミーティング、ゼロ災活動、リスクアセスメント)を介して、ボトムアップとしての安全管理が展開されている事業所も少なくない。

Ⅲ.テーマごとの安全対策

(1)機械・設備の安全化
機械・設備の安全化を図るうえでは、①計画・設計段階の安全化を図ること、②機械・設備自体の本質安全化を図ること、③それらを維持管理すること、が安全確保のための手段になる。

(2)交通災害対策
事業場内でのフォークリフトなどの運転業務の他、事業場外での社用車の運転なども、安全管理の範疇である。特に健康状態が不良な状態での運転業務の実施は、事故の発生に際しては従業員だけではなく第三者にも影響を及ぼすことから、作業者の健康面も考慮した安全管理が必要である。

(3)高年齢労働者対策
現在の職場の多くは、高年齢労働者が働くことを前提とした設計がされていない。少子高齢化の加速を背景に、高年齢労働者の健康状態を考慮した安全管理対策が必要であり、そのことを目的としたガイドライン(治療と仕事の両立支援、エイジフレンドリー)なども公表されている。

法令・制度等

機械の包括的な安全基準に関する指針(平成13年6月1日 基発第501号)
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(令和4年厚生労働省告示第367号)
高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(令和2年3月16 日 基安発 0316 第1号)
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(平成28年2月23日  基発0223第5号、健発0223第3号、職発0223第7号)

キーワード

安全管理、安全配慮義務、小集団活動、5S活動、リスクアセスメント、交通災害、治療と仕事の両立支援、高年齢労働者対策、エイジフレンドリー

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