産業医の手引き<ダイジェスト>
1章:産業医活動の基礎

7 ICT端末を活用した遠隔(リモート)産業保健活動の可能性と課題

三宅 琢

要旨

産業保健分野における作業環境管理、作業管理、健康管理、その他(小規模事業所、コロナ対応、船員向け産業保健、合理的配慮など)においてICT (Information and Communication Technology)型端末の活用の可能性と課題を具体的な活用事例を中心に紹介する。

Ⅰ.作業環境管理におけるICT活用のポイント

定期的な職場巡視に加えて、スマートフォンやタブレットのカメラ機能を活用したオンライン通話システムなどのICT端末を利用した遠隔での職場巡視による迅速な作業環境管理が検討できる。また、無料の環境測定アプリなどを活用することで照度、騒音レベル、振動レベルなどの情報を簡易的に可視化することが可能であり、現場スタッフとの状況把握や相互理解を深めるうえでICT端末は重要なコミュニケーションツールとして機能する。小規模事業所、コロナ罹患などでの緊急での対応や船内の巡視、海外支店も含めた遠隔地などのこれまで迅速な対応が難しいと考えられた事業所では、職場巡視にICT端末を導入することで迅速かつ適切な管理と指導を行うことが可能である。

Ⅱ.作業管理におけるICT活用のポイント

ICT端末は作業や動作という情報の可視化を行うことが可能であり、日々の面談業務から緊急時の状況把握と指導などを含めてスタッフとのコミュニケーションツールとして機能する。ウェアラブルデバイスの心拍数測定やスマートフォンカメラのスローモーション動画やタイムラプス動画撮影など、これまでとは異なるモニタリング方法で業務と疾病の関連性についての評価を行える可能性がある。

Ⅲ.健康管理におけるICT活用のポイント

タブレットやスマートフォン用のアプリには労働者の健康意識を高めるのに役立つアプリが多数存在しており、これらのアプリを活用して労働者の健康を守るためにはまず健康に対して興味を持たせる契機をつくることが大切である。難聴チェックなどをはじめとした機能低下などを体感しながら健康リテラシーを学べるアプリも存在しており、ICT端末は職場での教育ツールとしても活用できる。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を契機に産業保健スタッフ側の安全を確保したうえでの迅速な面接実施が望まれる機会も増えたため、遠隔面接など今後ますます活用の機会は増えると考えている。

Ⅳ.合理的配慮などへの活用

昨今増加傾向にある障がい者雇用の法定雇用に関する合理的配慮の相談や発達障害傾向の社員相談などにもICT端末は安価に導入可能な合理的配慮の就労支援ツールとなり得る。社会的にも産業医に対して合理的配慮に関する情報提供が期待されている。

法令・制度等

安衛法令・規則、船員法施行規則等、テクノロジー(支援技術)を活用した発達障害者の就労促進・就労継続に向けた支援等に関する研究会によるオンラインマニュアル:http://at2ed.jp/download/job.pdf

キーワード

ICT端末、スマートフォン、タブレット、アプリ、スローモーション動画、タイムラプス動画、遠隔産業保健、遠隔面接、合理的配慮

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