産業医の手引き<ダイジェスト>
1章:産業医活動の基礎

4 職場巡視の実際

中川 陽之

要旨

Ⅰ.職場巡視の目的

職場巡視の目的は労働者を取り巻く作業状態や作業の変化、衛生状態、労働者の健康状態、職場のストレスの状況など、有害因子に関する情報を正確に入手し、安全衛生上の課題を把握すること、産業医が職場における問題点改善に向け、医学の専門家として適切かつ効果的な助言、指導を行うことである。職場環境は常に変動しているため、定期的かつ継続的に、さまざまな視点から巡視を行う努力と知識が産業医には要求される。

Ⅱ.職場巡視を適切かつ効果的に行うための心構え

(1)事業者が産業医の職場巡視に対しての意義や目的を正しく理解しているかを確認すること。

(2)職場巡視が年間の安全衛生計画のなかにしっかりと組み込まれているかを確認すること。

(3)職場巡視の際に見るべきポイントを定めて臨むこと。

(4)定期的かつ継続的な巡視を心がけること。

Ⅲ.職場巡視の準備

(1)事前に確認しておくとよい事項:職場の情報(見取図、組織図、人員構成、作業内容)、作業環境測定結果や健康診断結果、使用している有害化学物質リスト、有害作業の有無とその詳細など。

(2)巡視の際に携行するもの:自分で気づいたところをメモするための記録用紙と当日訪問予定の目的を確認するためのチェックリスト、服装は基本的には事業場の実情に応じて、普段着もしくは、ヘルメット、静電加工された服、安全靴、手袋、マスクなどの着用が必須の場合は必ず着用する。巡視予定の場所や工程によっては照度計、騒音計など各種測定機器を準備しておくとよい。

Ⅳ.職場巡視の際に常に頭に入れておくべき事項

そこで働いている労働者に注目した巡視を行うことが基本であり、「その労働者を中心として周りの作業環境や作業内容をみる」視点が必須である。すべての職場に必要な5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣・躾)の視点や化学物質の管理、保管状態の観察も必要であるが、産業医の視点としては労働者を守る視点を中心とした巡視にすべきである。

Ⅴ.職場巡視の事後措置

職場巡視の終了後、記憶が鮮明なうちに安全衛生委員会のメンバーとともに巡視後のミーティングを実施し、フィードバックする必要がある。巡視を通しての疑問や質問を解消するとともに、産業医の立場で気づいた指摘事項や改善案について意見の整合を図ることが望まれる。職場巡視を実施した際には職場巡視の報告書を作成し、産業医自身が記載することが望ましい。

法令・制度等

安衛法令・規則、事務所則、労働衛生のしおり、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

キーワード

職場巡視、チェックリスト、5S、整理、整頓、清掃、清潔、習慣・躾、安全衛生委員会、衛生管理者、プロセスフローシート、事後措置

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