産業医の手引き<ダイジェスト>
1章:産業医活動の基礎

2 産業医活動の実務能力の自己評価

松井 春彦

要旨

Ⅰ.嘱託産業医に求められる実務能力と身につけるためのポイント

(1)産業保健活動全体を俯瞰する
①専門産業医に必要な能力として18分野61項目が挙げられているが、診療の傍ら、限られた時間で産業医活動を行う嘱託産業医がすべてを取得するにはハードルが高く、必要とされる実務の研修を選択して受講するのが効率的である。
②優先順位が高いものから順に挙げると、1)産業医の姿勢や倫理に関すること、2)適正配置・過重労働やメンタルヘルスなどの重点課題に関すること、3)衛生委員会・法令改正への対応や産業保健スタッフとの連携に関すること、4)各種健康診断の企画・実施や労働者特性に応じた対応に関すること、5)産業保健体制の整備や職場のリスク評価に関すること、6)事業場の実状に基づく評価と施策の企画・立案に関すること、である。

(2)事業場のニーズを把握して客観的に自己評価を行う
①産業保健活動では関連法令や制度の成立・改正、感染症パンデミック発生への対応など事業場の規模・業種に関わらず共通する課題の他、化学物質を取り扱う有害業務のように事業場特有の課題や、産業保健体制によってもそれぞれの事業場でニーズは異なる。時機をとらえながら事業場における緊急度、優先度の高い課題について確認しておくことが大切である。
②嘱託産業医として必要とされる実務能力を参考に、どの実務能力ができていて、どのような能力が必要かを確認しておく。更に選任されている事業場で求められる実務能力に加えて、産業医活動の経験度合いに応じて、一人で実施できるもの、支援が必要なものを分けて習熟度合いを整理していくとよい。

Ⅱ.産業医活動に必要な資質を習得するために必要なこと

(1)産業医に必要な資質の要素には、センス・マインド・姿勢(態度)・コンピテンシー(コンピタンス)がある。特に「産業医のコンピタンス」は資質と技量を統合し望ましい結果を導き出す力(達成力)を合わせたものと定義される。

(2)一般常識、医師・産業医活動に必要な知識・スキルを基礎に(1)で挙げた要素が加わることで、よりバランスがよく安定した産業医活動が期待できる。日々の産業医活動の実務は質を上げるための貴重な機会であり、課題をクリアしながら経験を積み上げていくことが大切である。

法令・制度等

森晃爾 他「専門産業医に必要な能力に関する検討」『産業医教育における教育時間の提供に関する調査研究』. (公財)産業医学振興財団助成. 産業医学調査研究. 2013

キーワード

実務能力、自己評価、研修ロードマップ、センス、マインドコンピテンシー(コンピタンス)

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