産業医の手引き<ダイジェスト>
1章:産業医活動の基礎

1 産業医活動に臨むにあたって

上田 晃

要旨


Ⅰ.産業医の職務と心得

(1)産業医の要件:①日本医師会認定産業医(日本医師会が認定した「産業医基礎研修」で50単位を取得)、②産業医科大学「産業医学基本講座」修了者、③労働衛生コンサルタント試験区分「保健衛生」合格者、④大学において労働衛生を担当する教授、准教授、常勤講師の経験者、⑤厚生労働大臣が定める医師、となっており、医師免許だけで産業医業務を行うことはできない。

*前期研修14単位、実地研修10単位、後期研修26単位の計50単位が必須条件となっている。

(2)産業医の職務:①健康診断の実施及び結果に基づく健康保持措置、②長時間労働の面接指導及び健康保持措置、③ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)の実施と面接指導及び結果に基づく健康保持措置、④作業環境管理、⑤作業管理、⑥健康管理、⑦健康教育、健康相談、⑧衛生教育、⑨健康障害の原因調査及び再発防止に関する措置が代表的である。また事業主が従業員に適切な安全配慮義務が果たせるよう支援することも求められる。本篇では、産業医の職務の優先順位(日本医師会答申)を参考に「初級」「中級」「上級」に分類してみた。

(3)産業医の心得:①企業組織へのコミットメント、②積極的産業保健活動の推進、③面接時の丁寧なケースワーク、④法令・制度に則った業務遂行、⑤自己研鑚を常に意識しながら臨むべき。

(4)産業医の実務:事業所に赴いて業務を行うことを原則としていたが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックの影響により、安全衛生委員会、復職面談、過重労働の面接指導、ストレスチェック制度の面接指導は情報通信機器を用いての実施が可能となった。ただし、職場巡視については視覚以外の聴覚、嗅覚も重要であることから実地で実施しなければならない。

事業場との契約:「産業医契約書の手引き」が2019(平成31)年4月に日本医師会より出されており大変参考になる。なお、本篇の附録2−3に産業医活動の契約モデルを掲載してある。

Ⅱ.産業医の役割と4つの手段(指摘、助言、指導、勧告)

産業医は、中立的な立ち位置を意識して職務に従事することが重要である。その立ち位置で行う職務遂行が担保されるためには産業医の身分の保障が必要不可欠である。産業医の権限として、勧告、指導、助言、面接指導勧奨などがある。更に2019(平成31)年4月に施行された働き方改革関連法に基づき、産業医の権限が強化され、健康診断の情報、長時間労働・高ストレス者の面接指導の情報、労働時間が80時間を超えた従業員の氏名、労働時間や有給休暇取得状況などの情報、労働者の業務内容について、事業者は産業医に提供しなければならなくなった。

法令・制度等

安衛法令・規則、労基法、2015(平成 27) 年9月 15 日付基発0915第5号)、2021(令和3)年3月 31 日付基発0331第4号)、2020(令和2)年11月19日付基発1119第2号、2020(令和2)年12月25日付基発1225第1号)、2021(令和3)年3月31日付基発0331第4号、2020(令和2)年8月27日付基発第0827第1号、(2020(令和2)年8月28日付基発0828第1号)、2021(令和3)年3月31日付基発0331第4号、日本医師会「産業医契約書の手引き」

キーワード

産業医の要件、産業医基礎研修、産業医学基本講座、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント、産業医の職務、産業医の心得、産業医の権限強化、産業医の中立性、勧告権、安全配慮義務

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