産業医の手引き<ダイジェスト>
10章:労災補償

3 労災認定の考え方

後藤 博俊

要旨

 労災保険給付には「業務災害」と「通勤災害」があり、その成り立ちから別個のものとして構成されているが、その認定においても異なったものとなる。

Ⅰ.業務災害の認定の考え方

 「業務災害」の認定については、当該災害の「業務遂行性」と「業務起因性」の有無が重要な要素となる。「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配下にあることであり、「業務起因性」とは、文字どおり当該災害が業務に起因したものであるということである。この場合、「業務上の負傷」の場合、比較的容易に「業務遂行性」と「業務起因性」の判断がつきやすいことが多いが、「業務上の疾病」の場合は、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病に限らず、事業主の支配下にある状態において有害因子にさらされることによって発症した疾病も考えられる。

一般的に労働者に発症した疾病が、①労働の場に有害因子が存在すること、②健康障害を起こし得るほどの有害因子にさらされたこと、③発症の経緯及び疾病が医学的に見て妥当であること、の要件を満たした場合には、原則として「業務上の疾病」と認められる。

Ⅱ.通勤災害の認定の考え方

 一方、「通勤災害」の認定は、労働者が住居から会社への出勤、また、会社から住居への退勤時の災害に被った場合にである。

通勤途上の災害は、本来、業務上の災害とはいえないが、全く私的行為ともいえないことから、業務との関連性に着目して通勤災害補償制度が創設されたものである。この場合の「通勤」とは、業務に関し、①住居と就業の場所との間の往復、②就業の場所から他の就業の場所への移動、③単身赴任先住居と帰省先住所との間の移動を合理的な経路及び方法で行うことであり(この間でも業務の性質を有するものは「業務災害」となる)。移動の経路を逸脱し、または中断した場合には、原則として逸脱または中断の間、及びその後の移動は「通勤」には含まれない。

法令・制度等

労災保険法、業務上疾病の認定基準

キーワード

業務災害、通勤災害、業務遂行性、業務起因性、業務上の負傷、業務上の疾病、有害因子

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