2016年1月1日(金曜日)

年頭所感 東京都医師会長 尾﨑治夫

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 明けましておめでとうございます。会員の皆様が健やかに新年をお迎えになられましたことをお慶び申し上げます。
 昨年6月、野中博前会長の後継指名を受け、選挙においても多くの支持をいただき、東京都医師会長となり半年が経過いたしました。この間、がむしゃらに走ってきた感もありますが、すでに任期の4分の1が終わったということで、一層気を引き締めて、目標を見失うことなく、チーム一丸となって、新たな気持ちで邁進してまいりたいと考えております。

<新会館について>
 会員の方々にお世話になりながら建設を進めてきた新会館がいよいよ3月に竣工いたします。工事も順調に進んでおり、すでに8階まで建物の骨格は整い、全体像が見えてきております。お近くに行かれた際には、ぜひ現場を見ていただければと思います。新会館は防災機能を強化し、400人程度の帰宅困難者の収容も可能となります。救急蘇生や介護手技の習得に役立つ機器をそろえたシミュレーションセンターもできます。念願であった300人収容可能なホールも2階に造られ、代議員会や学術講演会、都民公開講座なども医師会館での開催が可能となりますので、私共としても、その完成を待ち望んでいるところです。

<2025年の医療>
 2025年に向けて、医療も大きく変わっていこうとしています。最終的にどういう形になっていくのか、今のところ見当もつかないのが正直なところです。昨年、ノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智北里大学特別栄誉教授のように、あきらめることなく、一つひとつコツコツと地道に物事を積み上げて最終的に大きな仕事を成就していく姿勢に学び、東京都医師会としても、東京都にふさわしい医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築に尽力してまいりたいと思っております。

 大切なことは、今までの保健医療計画には、東京の医療を将来どの方向にもっていくかというグランドデザインが欠けていた点であると考えております。私共は、今回、都の保健医療計画推進協議会の下の地域医療構想策定部会の中で、東京の医療の将来像を、きちんとした形で提示することが重要であると主張し、グランドデザインの策定をお願いいたしました。
 また、5疾病5事業をはじめとする各事業を展開するにあたって、現在の二次医療圏中心の取り組みがうまくいっているかどうか、もっと柔軟に区域の設定をしてはどうか、などの提案をしてまいりました。その結果、東京の構想区域設定にあたっては、従来の二次医療圏は、病床数を調整・整備していく「病床整備区域」として残し、5疾病5事業などの事業展開にあたっては、それぞれの事業について見直しを図り、「事業推進区域」といった新たな区域設定を行い、個々の事業展開にふさわしい地域を設定していくという考え方を提示し、福祉保健局の方にも了承していただきました。
 例えばがん診療は、救急と違い一刻も早く受診するという必要はありませんので、発達した交通網を利用して、患者さん一人ひとりがかかりつけ医と相談し、患者さんが希望する、それぞれのがんにふさわしい病院に受診できるようにしたほうがよいのではないか。したがって、二次医療圏で遮ることなく、東京全体を事業推進区域として考えたほうがいいのではという判断になります。
 一方、糖尿病は、新しい経口薬やインスリンが登場して、血糖コントロールが比較的良好にできるようになったとはいえ、高血圧や脂質代謝異常に比べ、食事・運動療法を重視しない限り、血糖コントロールを安定した良い状態に保つことはなかなか難しい疾患です。また基幹病院や、地理的に離れた糖尿病専門医のいる病院・クリニックに通うことが困難になる高齢の患者さんのことも考えると、地域包括ケアシステムを構築するぐらいの広さで、かかりつけ医が中心となり、地域の栄養士、運動療法士と連携して治療にあたるような形を作っていったほうが、血糖コントロールがより良好になり、健康寿命延伸、合併症予防の面でも効果的ではないかと考えております。
 このように実際の患者さんの流れや、疾病自体のもつ緊急性や治療法を考慮しながら、30年の医療計画策定に向けて諸事業を見直していく必要があると考えており、会員の先生方の考えも、いろいろと拝聴してまいりたいと思っておりますので、地区医師会を通じて私共に率直なご意見をいただきたいと思っております。
 地域包括ケアシステムの構築については、医療・介護・介護予防・生活支援・住まいといった5つの要素がしっかりと絡み合ったシステムの構築が必要で、その連携の要となるのは地区医師会であることに異論はないと思いますので、行政と一緒に主導的役割を果たしていっていただきたいと思います。すでに始まっている包括的支援事業の中の在宅医療・介護の連携推進においては、多くの区や市で数々の取り組みが開始され、順調な滑り出しと考えております。改めて、地区医師会の先生方の活動に心から敬意を表したいと思います。
 一方、介護予防給付の中の訪問介護と通所介護については、新しい総合事業のほうへ移行しますので、こちらについても、地域で生活する方のために、専門職の立場からいろいろなアイデアを行政に提供していただきたいと思っております。

<2020年のオリンピックに向けて>
 エビデンスに基づいたしっかりとした予防医療の展開によって、健康寿命延伸を図ることは、我々医師会にとっても最重要課題の一つです。「健康日本21」の参考資料にある2007年の成人死亡96万件の危険因子に関連した研究では、喫煙が128,900件で第1位、高血圧が103,900件で第2位でした。3位以下の因子はその数もぐっと減ってきます。

 このように我が国でも、がん・循環器疾患・呼吸器疾患の予防には喫煙を止めることが最も大切であるとのエビデンスがあるにもかかわらず、国や都のがん対策の項を見てもタバコ対策をトップに据えて、まずこのことから進めていくべきだとする主張は見たことがありません。
 我が国のたばこ専売の歴史、その後のたばこ事業法の存在、健康面からのタバコ対策の遅れが、現在も影響しているように思います。国際条約であるWHOのタバコ規制枠組み条約(FCTC)についても、2005年に締結したにもかかわらず、その後の条約不履行が目立ちます。
 喫煙者がタバコを止めるのと同様に、タバコを吸わない人が吸わされるタバコの煙の害、すなわち受動喫煙も、我が国では関連死者数が年に6,800人にのぼるといわれ、これを防止することも重要な対策です。今や、日本と一部の隣国を除き、受動喫煙防止対策としての分煙では無理で、「飲食店を含む人が集まるすべての閉鎖空間での禁煙」は常識になっています。
 IOCもWHOと協定し、タバコの煙のない空間でのオリンピック開催を求めています。近年開催されたオリンピックでは、例外なく、国あるいは都市レベルでの罰則付きの受動喫煙防止の法的措置がなされています。超高齢化社会に向かう我が国で、最も効果的な健康寿命延伸策はタバコ対策であるとの私の信念は揺るぎません。
 2020年のオリンピック開催に際し、東京が真の国際都市になるためにも、喫煙者の減少及び受動喫煙防止の法的整備に向けた活動を、地区医師会及び他の医療関係団体の協力のもと、更に強力に進めてまいりたいと思っております。会員の先生方、ぜひご支援と、地区医師会に対して医師会の中にタバコ対策委員会を設置し、東京都医師会と連動して活動をしていただけるよう要望をお願いいたします。

 引き続き、医療事故調査制度をはじめとして、会員の先生方をサポートする体制も更に強化してまいります。本年も、役員一同頑張ってまいりますので、東京都医師会をよろしくお願いいたします。

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