年頭所感 東京都医師会長 尾﨑治夫
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会長 尾﨑 治夫
今こそ、東京の医療・介護を守る術を考えるとき
明けましておめでとうございます。
まず頭に浮かぶ課題をいくつか…
臨時医療施設の必要性
昨年の元日に起きた能登半島地震をはじめ、地球温暖化が一つの要因と思われる自然災害の激化、今冬も流行ると思われる新型コロナウイルス感染症、東京都の行政の方々にもようやくサージキャパシティとしての臨時医療施設の必要性を理解していただき、協議会の設置がかなった。世田谷区では、コロナ禍での高齢者等医療支援型施設を利用した臨時医療施設の取り組みが先進的にスタートしている。今後、東京中にこうした施設が広がることを期待している。
医療・介護の危機
ウクライナ戦争に端を発した予期せぬ物価高、建設費や人件費の高騰、結果として不十分に終わった診療・介護報酬改定…こうした要因が重なり、今や日本全国で病院経営の危機的状況が明らかとなってきているほか、不十分な賃上げのために、医療人材の他職種への流出が続き、人手不足に輪をかける事態になっている。介護分野でも、同様の流出が起きている。少子化が進み、若い方々の人材確保が難しくなるなか、超高齢社会では、ただ病気を治す医療にとどまることなく、入院期間中のフレイルや認知症の発生を防ぐべく、介護分野の協力が必須で、病院では今まで以上に多職種の人材が必要になるのである。早急に診療・介護報酬の見直しと、補助金等の手当てが必要である。社会保障財源をどう確保していくかについても、しっかりとした議論を進めなければ。
然るに、国はコロナ禍が終わり平常の状態に戻ったものと現状をとらえ、このところ起きている医療・介護業界の激変に対して、何ら抜本的な改革を考えようとしていないように見える。
明らかにウクライナ戦争以降、世の中は地球温暖化と相まって激変しつつあるのである。今を乗り切ればいいのではなく、現状認識の甘さを反省し、さらに2040年を乗り切れるよう、近未来に向けたしっかりとしたグランドデザインを描くべきである。
東京ではさらに悲惨な状態に変わりつつある。全国一律の診療報酬のなか、物価、人件費、賃貸料、土地代等が全国一高い東京では、限られた一定の報酬で多くの支出を強いられ、令和5年度の決算では半数の病院が赤字に、令和6年度の決算では8割以上の病院が赤字になると言われている。
東京都医師会では、東京独自の民間病院への支援を強く要望している。国の政策転換と東京都の思い切った判断で、東京の病院危機を救ってほしい。地域包括ケアシステムの構築も、地域医療を支え、2次救急を支える多くの民間病院が元気に立ち直れることが必須条件なのだから。
医療DXを支える東京総合医療ネットワークの重要性
国の進める医療DX、マイナンバーカード・電子処方箋・2030年からの電子カルテなどの普及政策は確かに重要であると思うが、現時点で普及しつつある安価で、既存の異なるベンダーを結ぶことで成り立っている、東京総合医療ネットワークにもっと注目してほしい。
2024年12月現在、38の病院が開示施設として参加し、11の病院・8の診療所が閲覧施設として参加している。今後、東京大学医学部附属病院や、都立病院機構など多くの病院も加わっていく予定である。
かかりつけ医機能をどう発揮していくかの議論も深まるなか、総合診療専門医の養成は急務だが、如何せん数が足りない。各科の専門医が多数開業している東京では、各科の先生方が連携して、かかりつけ医機能を発揮する必要があると思っている。その際に必要となるのが、電子カルテやMCS等による情報共有である。また自院から送った患者さんが紹介先の病院で、どういう診断や治療を受け、MRI等の画像はどうなっているかも見られるようになる。そうしたネットワークへの参加をそろそろ検討していただきたい。
思うがままに書いてきたが、今年は超高齢社会の入り口。はたしてどんな年になるのか。2025年は、乙(きのと)己(み)の年だそうだ。意味するところは、『再生や変化を繰り返しながら柔軟に発展していく年』とのこと。本当にそうなってくれるといいのだが、国や東京都の政治状況はどうなるのか…今年は参議院議員選挙や都議会議員選挙も行われる。
今後多くの道府県では過疎化が進む一方で、首都圏は人口減なく、家庭介護力のない世帯が増えていくと予想されている。医療・介護についてもそれぞれの都道府県で先行きが異なっていくことになる。そうした状況で、今までのように厚生労働省や国会議員、日本医師会に頼ってばかりいてよいのか。今こそ都道府県医師会それぞれの力量が試される時と、私は考える。
そして何よりも、新たな財源増の見込みがないまま、少子超高齢社会において安心安全な医療・介護の体制を維持することはできるのか、会員諸氏に問いたい。