2023年1月1日(日曜日)

年頭所感 東京都医師会長 尾﨑治夫

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公益社団法人 東京都医師会
会長 尾﨑 治夫

 

新しい年をポストコロナにつなげていくために

明けましておめでとうございます。会員の先生方におかれましては、新型コロナウイルス感染症対策並びに日々の診療等にご尽力いただき、心より感謝申し上げます。
新年にあたり、思うところの一端を述べさせていただき、ご挨拶といたします。

 

新型コロナの行く末

新年は、悪くすると新型コロナとインフルエンザの同時流行で迎えることになるかもしれません。

新型コロナの重症者を拾い上げ死亡者を少なくすること、すなわち重症化しやすい人を早期に見極め、きちんと入院させられる仕組みを作ること。地域医療を担っている多くの診療所や中小病院が、新型コロナ以外の発熱患者さんをしっかり診てくれるようになること。

こうしたことが実現され、パキロビッドやラゲブリオがもっと使いやすくなり、ゾコーバについても、感染力を持ったウイルス量を減らすという点に注目し、医療・介護職や社会経済活動を中心的に担う人に、療養期間短縮(7日から5日)の意味で服用してもらうようになれば、第8波が収束する頃には、5類あるいは新型コロナにふさわしい新たな感染症分類に向けての議論が加速していくものと思われます。

更に、新しいタイプの経口薬やワクチンの登場、オミクロン株以降に問題となっている肺炎以外で重症化する感染者のメカニズム、それに見合った治療体系の確立等がなされれば、新型コロナの収束は現実のものとして視野に入ってくるでしょう。

 

ポストコロナにやってくる少子超高齢社会

新型コロナもひと段落と思うのも束の間、団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者となる少子超高齢社会の入り口が、2年後の2025年に迫っています。

人口が減らず、住環境の悪いなかで単身者や高齢者のみの世帯がどんどん増えていく東京都では、コロナ禍で24時間支援体制や地域包括ケアシステムの基盤が整ってきたとはいえ、まだまだ準備すべき体制がたくさん残っています。歯止めがかからない少子化の波をどう食い止めるか、今年4月に設置される予定のこども家庭庁がどのような骨組みでスタートするのかにも注目していく必要があります。

東京都医師会では昨年から、ウィズ/ポストコロナ時代における医療提供体制の抜本的な改革と社会保障の理想像について検討する「TMA近未来医療会議」を立ち上げました。新型コロナ診療から得たさまざまな教訓をスタートとして、財源論も含め、2040年までを見据えた医療・介護・福祉の体制維持に向け、議論を続けているところです。私が会長に就任してから4期目となる現執行部が終わるまでに何らかの結論を出し、会員の皆さんに近未来の東京都の医療のあるべき姿を提示したいと考えているところです。

コロナ禍では、普段は患者さんを地域で診ている医療機関の一部の “自称かかりつけ医”が発熱患者さんの診療をお断りすることが起こり、改めてかかりつけ医の問題が浮上しました。日本医師会が示した現時点でのかかりつけ医の考え方、慶應義塾大学商学部の権丈善一教授が全世代型社会保障構築会議で示した「かかりつけ医機能合意制度」の提案など、色眼鏡をかけず、フリーアクセスで患者さんの思うまま医療にアクセスできる今の制度が本当に良いのかどうかも含め、検討していきたいと思っています。

 

乗り切るための財源論 防衛費GDP比2%の前に国民・都民のためにやるべきこと

高齢化と医療の進歩に伴い、当然のように医療費は増えていき、介護費用も当然増えていきます。しかし、いまだ根本的な財源確保の議論はなされていない状態です。財源がなければ、増大する医療・介護費は捻出できず、更に強い形で医療・介護費の抑制政策がとられる可能性が出てきます。国民皆保険制度の維持は危うくなり、介護難民の増加も容易に予想されます。高額所得者に対する所得税や企業の内部留保、高齢者の金融資産や相続税等を財源に充てるといった考えもあるようですが、やはり消費税で広く平等に負担していくことが良いと思います。

慶應義塾大学経済学部の井手英策教授は、将来への不安から消費せず貯蓄に回してしまう現在の不況から抜け出すための方法として、「ベーシックサービス」を取り入れることを提案しています。消費税を16〜19%に上げて教育・医療・介護等にかかる費用を無償化することで、誰でもサービスを受けられるようになり、人々が社会で安心して暮らすことができるという概念です。検証は必要ですが、やはり社会保障財源、特に医療・介護関係については、私たち医療者も他人事とは思わず、素人なりにしっかり考え、意見を述べていくべきであろうと思います。

政治家の方々は、細かい現状分析なしに「世界に冠たる国民皆保険制度」と口にしますが、その制度の持続が明らかに赤信号になっている時、真っ先に日本のとるべき道はこの財源確保であり、内容の不透明なNATO加盟国同様のGDP比 2%への防衛費増額に向けた決断の前に、社会保障財源をいかに確保するか、そしてタブーに近い状態になっている消費税増税についての議論を始めるべきではないでしょうか。

 

今年も予測できない展開が待っているような気がいたします。会員諸氏におかれましては、東京都医師会のもとに団結し、東京都の医療を守るために頑張ってまいりましょう。

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