2018年11月14日(水曜日)

第17回 東京都医師会 都民公開講座「適切な運動でフレイル予防―健康寿命を延ばそう―」(開催報告)

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第17回 東京都医師会 都民公開講座「適切な運動でフレイル予防―健康寿命を延ばそう―」

 歳を取るとだんだんと心身の活力が弱くなり、社会とのつながりが減ってしまいがち。大きな病気にならないまでも、活力のある生活が徐々にできなくなってしまいます。このような状態を「フレイル」(虚弱)と呼びます。

 今年度の都民公開講座は、このフレイルに焦点をあて、「適切な運動でフレイル予防―健康寿命を延ばそう―」をテーマに、フレイルの予防について多方面から学び、講演の最後には、座ってできるラジオ体操で気持ち良く身体を動かしました。

 当日の模様は以下の動画をご覧ください。

当日の模様

     ※画面が表示されない場合にはこちらをクリックしてください。


第17回 都民公開講座
「適切な運動でフレイル予防―健康寿命を延ばそう―」採録

 10月8日、体育の日に東京都医師会都民公開講座が東京都医師会館(千代田区)で開催された。今年度のテーマは近年話題の「フレイル」。この「フレイル」を知り、どのように予防するかについて、参加者とともに考えた。

プログラム


主催者あいさつ


公益社団法人東京都医師会
 会長 尾﨑 治夫

 私のところに通ってくれている患者さんの70代の男性が、それまで姿勢良く元気に歩いていたのに、杖をついてよろよろと歩いてきて驚いたことがありました。聞くと、軽い糖尿病と診断されて食事制限をしたところ、血糖値は正常値になったものの、体重は5キロも減り、体力も落ちてしまったそうです。のちに飯島先生にお会いしたとき、このような状態を「フレイル」ということを知りました。

 70歳を超えたらメタボ予防よりもフレイル予防が大事。要介護になること、その前段階であるフレイルを予防するためには、しっかり食べて適切な体重や筋力を保つことが大切です。今日ここで学んだことを、明日からの生活にぜひ生かしてください。


なぜ老いる?ならば上手に老いるには―健康長寿 鍵は“フレイル”予防―


東京大学高齢社会総合研究機構
 教授 飯島勝矢氏

健康長寿の鍵はフレイル予防から

 フレイルとは、健常な状態と要介護状態の中間にあたる虚弱の状態のことを指し、2014年に日本老年医学会が提唱しました。人は加齢に伴い、筋力の低下によって、体重が減少したり、疲れやすくなったり、歩く速度が遅くなったりします。それをそのまま放置すれば要介護状態になる可能性は高くなるばかり。そのことを知って、「フレイルを前向きに予防しよう」というのが今回の都民公開講座の目的です。

 また、フレイルは肉体的な側面だけでなく、精神心理的な側面と社会的側面があり、相互に深く関わり合いがあるというのも特徴です。例えば、筋力が衰えたことによって疲れやすくなったため、外出が減る。外出が減ると人との付き合いも減り、出かける用事がなければますます筋力は衰えます。

 逆に、マメな人付き合いや社会活動に出かける人は、人とのコミュニケーションが活発で、日常の動作である程度の筋力は維持できます。どちらが幸せかは明白ですね。フレイルは要介護状態の「手前の状態」なので「努力によって健常な状態に戻す」ことができるのです。

これからの健康に栄養・運動・社会参加の3つの柱

 フレイル予防を周知し、それを全国的な活動にするために、私は「市民サポーター主導型健康増進プログラム」を開催しています。このプログラムでは、筋力や口腔、心の状態、社会性などがフレイルであるかどうかの簡単なチェックを、地域のフレイルサポーター主導で行っていきます。

 その中のイレブンチェックの内容は「野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を毎日2回以上は食べていますか」「1日1回以上は、誰かと食事をしますか」など11の質問に「はい」「いいえ」で答えてもらうことで、栄養・運動・社会参加の程度を測るもの。栄養と運動だけでなく、社会との関わりや人とのつながりが健康寿命を延ばすというデータもあり、非常に注目されています。

 栄養と運動、社会参加は三位一体です。適切な筋力を保つために、食事と運動が大切なことは誰もが知っています。しかし、これまでに運動習慣のない人が急に運動を始めることも、毎日継続することもとても難しいでしょう。そこで大切になってくるのが人とのつながりを生む文化活動。

 友人とカラオケに行ったり地域のボランティア活動に参加したりするなど、出かける予定が多くある人は、自然と筋力の低下を防げているケースも多いのです。無理なく、楽しく前向きに、今日からフレイル予防に取り組んでみてください。

参加者全員で「指輪っかテスト*」(ふくらはぎの筋肉量を確認)というフレイルチェックを実施しました

*指輪っかテスト:自分の両手の親指と人さし指で輪を作り、その輪でふくらはぎを囲む簡単なチェック。囲めない・ちょうど囲める場合は、サルコペニア(加齢や疾患による筋力低下)の危険度が低く、隙間ができる場合はその危険度が高くなる。


知っておきたい歩き方・走り方のコツ
―正しく知って、しっかり“フレイル”予防―


マラソンランナー
 谷川真理氏

「骨盤」で歩いて若返り

 今日ここに来ている方の中にも、普段からウォーキング、ランニングをしているという方も多いと思います。日本のウォーキングの人口は、約4000万人とも言われていますが、マラソンランナーとしてランニングの楽しさと体への効果を長年実感している私としては、ウォーキングの中に、3分でも5分でも、ランニングを取り入れていただければと思っています。

 ランニングをすると、新陳代謝が良くなること、ストレスの解消、スタミナがつく、生活習慣が変わる、感性が豊かになる、自信がつく、仲間ができる、距離感がつくなどたくさんのいいことがあります。体だけでなく、私は汗とともに悩みも流れると考えており、走ると気持ちも前向きになると思っています。

 思い立ったら今日からでも、誰でもすぐに始められるのもランニングのいいところ。鍛えれば鍛えるほど、体は変わっていくし、強くしなやかになっていく体を実感できるはずです。歩くときも走るときも、意識して欲しいのはその姿勢。

 みぞおちのあたりから足が生えているという気持ちで、骨盤から足を押し出すような気持ちで一歩を踏み出してみてください。目線は少し遠くを見るように。「老化は足腰から」とも言われるので、いつまでも気軽に歩いたり、走ったり出来るような体作りをぜひ普段から意識してみてください。

効果的なウォーキング・ランニングの仕方をレクチャーしました

10年後に動ける身体を作る食事とは


臨床栄養実践協会 理事長
 足立香代子氏

年をとったら痩せたらダメ

 「年を重ねたら代謝が落ちるので食べる量をコントロールするべきだ」と食事に気を使っている人も多いかもしれません。しかし、10年後に動ける体でいるためには、今日から発想と食事の方法を変えて欲しいと思います。

 まず、これからの体のためには「筋肉を落とさない」「痩せない」「骨折を予防する」ことに重点を置いてください。そのための食事のポイントは、毎食良質なたんぱく質を摂取することです。1日75グラムを目標に、肉や魚、卵などのたんぱく質をしっかりと摂ってください。

 筋肉を保つためには、アミノ酸の一種であるロイシンを多く含む食品を摂取することも重要です。ロイシンが多いのは、チーズ、卵、マグロ、鶏肉、サンマ、牛肉など。魚に偏りすぎず、肉と魚をバランスよく食事に取り入れてください。

 多くの人が「控えた方がいい」と思っている油は、積極的に摂るべき栄養です。脂質は三大栄養素に含まれる重要な栄養素であり、肌や髪を美しく保ったり、脳の神経の働きを保ったりすることに加え、栄養素の吸収も助けます。また、糖質は油と一緒に摂取することで食後の血糖値の上昇カーブを緩やかにするのです。

 食べ方のポイントとして私がお勧めするのは肉や野菜、油を使ったおかずを最初に食べる「おかずファースト」。野菜やたんぱく質のおかずを先に食べ、ご飯を後から食べることで食後の血糖値の上昇は穏やかになります。

 これまでの思い込みを捨て、10年後に動ける体のための食事を、ぜひ今日から実践してください。

自身の普段の食事を例にして、バランスの取れた食事と食べ方のポイントを解説しました

立っても、座ってもできるラジオ体操のワンポイントレッスン


元NHKテレビ体操アシスタント
 押味愛里沙氏

座ってできるラジオ体操

 現在のラジオ体操は、始まった当初から少しずつその内容が改定され、3代目となります。初代ラジオ体操が制定されたのは、1928年なので、ラジオ体操は今年、制定から90周年を迎えました。ラジオ体操がこれだけ長い間日本人に愛され続けているのは、やはりそれが良い体操だからだと思います。

 ラジオ体操第一は時間にして3分10秒。その中に13種類の運動が入っているのです。その13種類も、準備体操から、心拍数の上がる動き、そして最後は呼吸を整えながら行う整理体操になっており、構成も理想的。座ってできるようなアレンジもあるので、今日はぜひ、ラジオ体操の良さを実感していただきたいと思います。

 まず、椅子には浅めに腰掛け、骨盤を立てるように座ります。最初の背伸びの運動では、できるだけひじをまっすぐにして背筋を伸ばすように、ゆっくりと腕を上げます。体を前後に曲げる運動では、前かがみになった時に両腕で足を挟むように前屈。背中や腰の柔軟性を高める運動です。

 ラジオ体操は、日本全国どこでも、どんな年齢の人もできます。日常に楽しみながらラジオ体操を取り入れて、これからの元気な日本をみなさんと目指したいですね。

最後は参加者全員で音楽に合わせて身体を動かしました

閉会あいさつ


公益社団法人東京都医師会
 副会長 平川 博之

 押味先生のラジオ体操レッスンで、私もみなさんと一緒に、人生で一番というくらい真面目にラジオ体操を実践させていただきました。指導者がいかに大切か実感したところです。

 人生100年時代と言われるようになり、健康寿命を延ばすには、メタボ予防からフレイル予防へとシフトしていくことが大切だということを今日の都民公開講座でおわかりいただけたと思います。世界に先駆けて超高齢社会を迎えている日本を、一人ひとりの心がけで元気な社会にしていければと願っています。


<司会>町 亞聖氏

関連資料

開催概要

日 時 2018年10月8日(月・祝)13:30~16:20(開場13:00)
会 場 東京都医師会館(千代田区神田駿河台2-5)
アクセスマップはこちら
主 催 東京都医師会
共 催 朝日新聞社
後 援 東京都
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