第1章:タバコ(ニコチン)は嗜好品ではなく、依存性薬物です

Q1:タバコは嗜好品であり、本人が好きで吸っている?

A1:タバコは嗜好品ではなく、ニコチンで依存が生じる依存性薬物です。

習慣的喫煙行為は「ニコチン依存症」であり、ニコチンが人間の脳に作用して依存を形成するメカニズムは、すでに多くの研究から明らかにされています。

脳内には喜びを感じる部分(脳内報酬系)が存在し、通常はアセチルコリンが神経伝達物質としてα4β2 受容体に作用するとドパミンが放出されて喜びを感じますが、ニコチンが作用すると大量のドパミンを放出するため(※1)、生まれて初めてタバコを吸った時は、過剰なドパミン刺激によって気持ちが悪くなります。

 

しかし、ニコチンが常に体に入ってくると、体はニコチンと過剰なドパミンの存在下でバランスを取り直すために、脳のドパミン受容体を閉じてしまいます(※2)。そして、一度「ニコチンありき」でバランスを取り直してしまった脳は、ニコチンが切れてくると、今後はドパミン不足となりイライラしてストレスを感じます。

 

ニコチン切れのイライラは、ニコチンが補充されると収まるため、タバコを吸うとストレスが解消するように感じますが、実はニコチン切れのストレスが収まっているに過ぎません。ご本人は好きで吸っている嗜好品と感じていますが、いつの間にかニコチン依存の状態にさせられているのです。

違法な薬物と異なり、精神が崩壊することはないため合法ですが、やめることができなくなる依存性薬物なのです。

 

ニコチン依存の形成メカニズム

 

【出典・参考文献】
※1 Enhanced dopamine release by nicotine in cigarette smokers. Takahashi H, et al : Int J Neuropsychopharmacol. 2008 May;11: 413-7.
※2 Reduced dopamine D1 receptor binding in the ventral striatum of cigarette smokers. Dagher A, et al :Synapse. 2001. 42(1): 48-53.

Q2:喫煙はストレス解消になる?

A2:禁煙に成功すると、逆にストレスが減少することが分かっています。

タバコを初めて吸っても、ストレスが解消されることはありません。むしろ気分が悪くなるだけです。しかし、一度ニコチンが体内にある状態で体がバランスを取ってしまい、いわゆる「ニコチン依存」の状態になってしまうと、ニコチンの血中濃度が低下してくるたびに、ニコチン切れのイライラ(離脱症状/ 禁断症状)を感じます。

 

 

ニコチン切れのイライラは、タバコを吸うと消失するため、喫煙はストレスを解消すると勘違いしてしまいますが、実は喫煙こそが「ニコチン切れのストレス」を生み出しているのです。ですから、禁煙に成功すると“ニコチン切れのストレス”を感じなくなるため、ストレス度スコアも低下することが分かっています(※1)。

 

【出典・参考文献】
※1 Mino, Y. et al.:Psychiatry Clin Neurosci. 2000. 54(2):169.

Q3:禁煙すると精神的に不安定になる?

A3:むしろ「喫煙者の方が精神的に不安定になる」ことが確認されています。

毎日ニコチン血中濃度の乱高下を繰り返すことで、実は喫煙者の方が精神的に不安定な状態となります(詳しくはQ2参照)。そのため、喫煙者の方がパニック障害を引き起こしやすいことが分かっています(※1)。

また、ニコチンには覚醒効果があるため、不眠症などの睡眠障害を引き起こしやすく(※2)、喫煙者の方が精神的に不安定になりやすい状態であると言えます。

たしかに、禁煙開始後3日間ほどは、急激に体内のニコチンが消失して行くため、精神的に多少不安定になるかもしれませんが、実は喫煙を継続する方が精神的には不安定な状態を持続させてしまうのです。

世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)でも、喫煙行為は第5章:F17「精神作用物質使用による精神及び行動の障害」に分類されています(※3)。発がん性や多くの疾病発症リスクがあると知りながらも吸い続ける精神状態や行動は、正常とは言えないのです。

 

【出典・参考文献】
※1 Breslau, N . et al.:Arch Gen Psychiatry. 1999. 56(12):1141.
※2 Wetter, D. M. et al.:Prev Med. 1994. 23(3):328.
※3 融道男ほか:ICD-10 精神および行動の障害 新訂版.医学書院,2005.

Q4:禁煙すると自殺が増える?

A4:むしろ「喫煙者の方が精神的に不安定になる」ことが確認されています。

1日の間に何回もニコチン血中濃度の乱高下を繰り返すことで、実は喫煙者の方が精神的に不安定な状態となります(詳しくはQ2、Q3参照)。

日本の多目的コホート研究(JPHC研究)によると、タバコを吸わない人に比べてタバコを吸う人は、30%自殺リスクが高いとされています。また、タバコを吸った総量(箱x年数)が多いほど自殺率は高く、1日に吸う本数が多いほど自殺率が増えるということが明らかにされています(※1)。

米国の男性医療関係者を対象とした研究でも、タバコを吸わない人に比べて吸う人は、自殺のリスクが4.3倍高いとされています(※2)。また、非喫煙者に比べ受動喫煙の曝露が時々ある非喫煙者では1.63倍抑うつ気分のリスクが高く、喫煙者の抑うつ気分のリスクは2.25倍であったという報告もあります(※3)。

 

【出典・参考文献】
※1 Iwasaki M, Akechi T, Uchitomi Y, Tsugane S. Cigarette smoking and completed suicide among middle-aged men: apopulation-based cohort study in Japan. Ann Epidemiol. 15(4):286-92, 2005.
※2 M Miller, D Hemenway, and E Rimm. Am J Public Health. 90(5): 768–773, 2000.
※3 Nakata, A. et al.:Prev Med. 46(5):451, 2008.

Q5:禁煙するとストレスが溜まって、がんになる?

A5:むしろ禁煙した方がストレスも減りますし、当然がんも減ります。

実は禁煙した方が、数時間毎に悩まされていたニコチン切れのストレスから解放されるため、ストレスは軽減します(Q2 参照)。

また、タバコの煙には70種類以上の発がん物質が含まれておりますので、当然ですが禁煙した方が、がんになる確率は減ることが確認されています(※1)。

 

【出典・参考文献】
※1 http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/kitsuen2/kitsu2.files/frame.htm

Q6:何日間も吸わずにいられるので、依存症ではない?

A6:依存には、ニコチンへの依存だけでなく、心理的な依存も存在します。

おっしゃるとおり、タバコを吸わずに何日間も普通にしていられるという場合は、厳密には「ニコチン依存症」ではないかもしれません。

喫煙を続けていると、ニコチンの存在下で神経や体がバランスを取ってしまうため、ニコチンが切れてくると逆にバランスが乱れ、イライラするなど不快な症状(離脱症状/ 禁断症状)が出現します。これが身体的依存(ニコチンによる薬理学的依存)です。

一方、ニコチン切れのイライラはタバコを吸うと消失しますので、「タバコはストレスを解消する」という自己暗示にかかり、何かストレスがあるとタバコに頼ろうとするようになります。これが心理的依存(喫煙行為への行動学的依存)です。

また、タバコを吸いに行くことが、ちょうどいい休憩になりますし、煙を吐き出す動作で深呼吸・ため息効果も得られるため、落ち着くと感じるのです。

 

このような観点から、喫煙については米国精神医学会(APA)診断・統計マニュアルの中でも、第4版(DSM-Ⅳ)までは他の違法薬物と同列で「ニコチン依存」として分類されてきましたが、第5版(DSM-Ⅴ)では、「物質関連障害及び嗜癖性障害群」の中で、「依存(dependence)」と「乱用(abuse)」を合わせた概念である「使用障害」に統合され、「ニコチン」ではなく「タバコ」という言葉を用いて、「タバコ使用障害(Tobacco use disorder)」として分類されるようになりました(※1、※2)。

 

【出典・参考文献】
※1 高橋三郎,大野裕,染矢俊幸:DSM-4TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2004.
※2 高橋三郎:DSM-5 診断面接ポケットマニュアル.医学書院,2015.

第2章:タバコの害は過小評価されています

Q7:どうしてタバコだけが目の敵にされるのか?

A7:「日本人においても、死因に最も関与する危険因子は喫煙である」 ということが判明したため、これだけ問題視されるようになったのです。

様々な因子の影響を統計学的に補正して分析した結果、喫煙が寿命を縮める最も大きな原因であることが判明しているのです。タバコの煙からは、現在70種類以上もの発がん物質が検出されています。また、喫煙による病気はがんだけではなく、現在22種類もの病気・病態との因果関係が「確実」だと判明しています。

 

喫煙、高血圧、糖尿病、肥満、運動不足などの生活習慣や病気が、各々どれほど寿命を縮めているのかを試算した東大グループの研究によれば、日本人男性の命を縮める最大の原因はタバコで、毎年13万人の命を奪っていると推計されました(※1)。

高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満をすべて合わせても、タバコの寿命縮小効果には及びませんでした。禁煙を推進することこそが、健康寿命を延ばすための最優先課題であることが証明されているのです。

 

【出典・参考文献】
※1 Ikeda N, Inoue M, Iso H, et al : Adult mortality attribut- able to preventable risk factors for non―communicable diseases and injuries in Japan : a comparative risk as- sessment. PLoS Med 2012 ; 9 :e1001160.

Q8:発がん物質はタバコ以外にも含まれているのでは?

A8:確かに食品や環境中にも発がん物質は存在しますが微量であり、また食品や環境中の成分を避け切ることはできません。一方、タバコを吸わずに生活することは可能ですので、がんの予防には禁煙が最も推奨されるわけです。

タバコの煙からは、現在70種類以上の発がん物質が検出されています。喫煙は、肺がん以外にも全身10ヵ所のがんと因果関係が「確実」であることが判明しています。

がんの他にも、脳卒中、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、慢性閉塞性肺疾患、早産、胎児発育遅延などの疾患とも、因果関係が「確実」と判明しています。

また、受動喫煙でも、肺がんをはじめ脳卒中、虚血性心疾患、喘息、乳幼児突然死症候群などが引き起こされることが「確実」であると判明しています。

厚生労働省 喫煙の健康影響に関する検討会報告書(平成28年8月)の概要を知りたい人のためにより引用

 

【出典・参考文献】
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/reg_stat/cancer_control/report/tabacoo-report2016.html

Q9:タバコと肺がんは関係ないのでは?

A9:肺がんに限らず、がんに喫煙が関係することは、科学的に証明された事実です。

タバコを初めて吸った日に、肺がんで亡くなる方はいません。喫煙率のピークと、肺がん死亡率のピークとの間に、30年以上の時差が生じることは、他国のデータを見ても明らかです。タバコを吸う人に肺がんが発生し、増大して発見され、治療して闘病生活を送ってから亡くなるまでには、30年程度の歳月がかかるのです。

 

諸外国でも日本でも、喫煙率がピークとなってから約30年後に、肺がんの死亡率がピークに達しています(※1)。日本で喫煙率が減少してきているのに、肺がんの死亡率が減少していないからといって、タバコと肺がんが無関係であると考えるのは、大きな誤解です。日本でも、すでに肺がんの死亡率は低下しはじめており、今後さらに低下することでしょう。

 

【出典・参考文献】
※1 trends in tobacco use and lung cancer death rates in the U.S.
   National center for health statistics, centers for disease control and prevention.

Q10:肺がんでも、肺腺がんとタバコは関係ないのでは?

A10:肺腺がんもタバコとの関係(特に受動喫煙との関係)が明らかになっています。

肺がんは、その組織型によって扁平上皮がん、腺がん、小細胞がん、大細胞がんの4つに大別され、そのうち主に太い気管支に発生する扁平上皮がんと小細胞がんは、以前から喫煙との因果関係が明白でした。

一方、主に肺の奥に発生する腺がんは、非喫煙者の女性にも多く発生することなどから、喫煙とは関係ないと思われている時代もありました。

しかし、近年の日本及び諸外国の研究では、肺腺がんと喫煙の間にも明らかな因果関係が証明されています。日本人においても、喫煙者は非喫煙者と比較して肺腺がんは1.4~2.3倍であり、喫煙や受動喫煙で肺がんが起きることは、すべての組織型で確実であることが証明されています。

 

 

肺腺がんは、特に受動喫煙との因果関係が明らかとなっており、国立がん研究センターのコホート研究によると、女性の肺腺がんは受動喫煙のあるグループでは受動喫煙がないグループに比べて約2倍高く、夫の喫煙本数が多いほど発症リスクが高いことも判明しています。

受動喫煙では、一度空気中に広がった細かい煙の粒子を吸い込むため、有害物質が肺の奥まで到達しやすく、肺の奥に発生する腺がんの原因になりやすいと考えられています。そのため、肺腺がんは喫煙者と非喫煙者(受動喫煙者)との間で発症率に差が出にくく、喫煙との因果関係がないと勘違いされていた可能性があります。

 

 

 

【出典・参考文献】
1)Wakai K et al : Jpn J Clin Oncol, 36(5):309-24, 2006.
2)Kim CH et al : ILCCO. Int J Cancer, 135 : 1918-30, 2014.
3)http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/309.html
  Kurahashi N, Inoue M, et al.: Passive smoking and lung cancer in Japanese non-smoking women: a prospective study. Int J Cancer. 2008 Feb 1;122(3):653-7

Q11:タバコを吸っても長生きする人がいるのはなぜ?

A11:個人差は当然ありますが、平均寿命で比べれば喫煙者は非喫煙者よりも、日本で4年半、海外では10年も寿命が短いことが分かっています。

人間は、有害物質で傷ついた細胞が生じると、その細胞を自己修復したり破壊したりして、異常な細胞が増殖しないように自己制御する能力を持っています。

しかし、この能力には遺伝的な個人差が存在するため、当然、タバコを吸っても長生きをする方もいれば、吸わなくても病気になる
方もいらっしゃるでしょう。しかし、平均寿命で比較すると、喫煙者の寿命は明らかに非喫煙者よりも短いのです。

また、非喫煙者と喫煙者の平均寿命の差は、海外では約10年もの差がありますが(※1)、日本では4年半しかありません(※2)。この原因として、日本では受動喫煙対策の遅れから、受動喫煙によって非喫煙者の寿命が短くなっている可能性も疑われているのです。

 

 

【出典・参考文献】
※1 Doll R, et al. BMJ. 2004; 328: 1529-33.
※2 Ozasa K, et al. Reduced Life Expectancy due to Smoking in Large-Scale Cohort Studies in Japan. J Epidemiol. 2008; 18: 111-8.

Q12:タバコの煙より、車の排気ガスを吸う方が有害では?

A12:喫煙・受動喫煙の害は、排気ガスの害を大きく上回ることが示されています。

排気ガスも、口にくわえて直接吸えば確かに有害でしょう。また、狭い部屋の中に車を入れて、エンジンをかけたまま同じ室内で食事をするなら有害です。

しかし、実際には排気ガスをこのような状況で吸うことなどなく、屋外で大量の空気によって薄められてから吸い込んでいます。排気ガスには厳しい規制があり、排気管の触媒(吸着剤)に多くの有害成分を吸着させてから排出されているのです。

 

一方、口にくわえたタバコの煙を直接吸い込む喫煙や、狭い室内に停滞した煙を長時間にわたって何回も吸い込む受動喫煙は大変危険なのです。実際、受動喫煙はディーゼル粒子の10倍もの余命を奪っていると試算されています。

環境汚染問題の専門家の試算によれば、日本人の命を奪っている汚染因子の第1位は能動喫煙、第2位は受動喫煙でした(※1)。第3位のディーゼル粒子(排気ガス)より一桁ないし二桁も大きい余命損失リスクをもたらしていると指摘されているのです。

 

 

【出典・参考文献】
※1 蒲生正志: RiskCaT-LLE(損失余命の尺度に基づくリスク計算機)による計算
   https://www.aist-riss.jp/softwares/40836/
   Gamo L, et al. Chemosphere. 2003 Oct;53(4):277-84. 改

Q13:タバコだけでなく、お酒だって害があるのでは?

A13:タバコは、お酒とは比較にならないほどの有害性があります。

アルコールは血管を拡張させて血行を良くしますが、ニコチンは血管を収縮させて心筋梗塞や脳卒中などを誘発します。また、タバコは不完全燃焼で生じた活性酸素を大量に吸い込むため、体中が酸化・老化して行きますが、アルコールはワインなどポリフェノールを含むものも多く、むしろ抗酸化作用によって活性酸素の悪影響を打ち消してくれるのです。

したがって、お酒は“適量飲酒”を守って少量を飲む場合には、むしろ死亡リスクが軽減することが分かっています。しかし、過度に飲むと肝臓を壊しますし、アルコールの中間代謝産物であるアセトアルデヒドには発がん性がありますので、やはり大量に飲酒すると死亡リスクは高くなるのです(※1)。

 

 

一方、喫煙も「少量ならば問題ないのでは?」という意見は以前からあり、「1日に数本ならストレスも取れて、逆に良いのでは?」というご質問を、喫煙者の方々から時々受けることがあります。しかし、これは完全に否定されているのです。

1日に吸う平均本数が1本未満という方も、死亡リスクは吸わない方の1.64倍で、毎日大量に飲酒する方の死亡リスクを上回ってしまうことが分かっています(※2)。お酒とは違って、“適量喫煙”というものは存在しないことが分かっているのです。

 

【出典・参考文献】
※1 Holman CD, English DR, Milne E et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. MJA 164: 141-145, 1996.
※2 Inoue Choi M et al. Association of Long-term, Low-Intensity Smoking With All-Cause and Cause-Specific Mortality in the National Institutes of Health-AARP Diet and Health Study. JAMA Intern Med 177: 87-95, 2017.

Q14:喫煙は認知症(アルツハイマー病など)の予防になる?

A14:タバコを吸うと、逆に認知症になる危険が増加します。

タバコと認知症の関連については、すでに科学的結論が出ています。

国際アルツハイマー病協会の2009 年世界アルツハイマーレポートにも、「基本的な予防対策としては、現在明らかになっている要因:高血圧、喫煙、糖尿病及び高脂血症を含む、心臓病のリスク要因に焦点を当てた取り組みをおこなうべきです。」と述べられています(※1)。また、ニコチンの強力な血管収縮作用により、脳の血流障害が生じるため、脳細胞が早く死滅して認知症は進行するのです。

 

最近発表された研究では、2万1千人のアメリカ人を対象とした約20年間の追跡調査の結果、中年期に1日2箱以上吸った場合、アルツハイマー病を発症するリスクが非喫煙者の2.36倍になっており(※2)、前述の結論を再確認するものでした。

日本でも、2015年の久山町研究の結果では、「中年期と老年期の喫煙は、いずれも認知症発症リスクと有意に関連し、とくに中年期の喫煙はアルツハイマー病、血管性認知症の発症リスクと有意に関連していた」と結論し、認知症予防の観点から禁煙が重要であるとしています(※3)。

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.alz.co.uk/research/files/WorldAlzheimerReport-Japanese.pdf
※2 Minna Rusanen, et al. Heavy Smoking in Midlife and Long-term Risk of Alzheimer Disease and Vascular Dementia.Arch Intern Med. 2011; 171: 333-9.
※3 Ohara T, et al. Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2015; 63: 2332-9.

Q15:喫煙はインフルエンザの予防になる?

A15:喫煙するとインフルエンザに感染しやすくなり、さらに重症化しやすくなります。

当然ながら、インフルエンザウイルスを人体に曝露させて、感染率を比較した人体実験データなど存在しませんので、タバコを吸うと気管支の粘膜が鍛えられるかもしれないと考えて提唱された仮説なのかもしれません。

一方、Kark(※1)らは、喫煙本数が増えるほどインフルエンザにかかりやすく、また重症化しやすいことを報告しています(※1)。

 

 

また、動物実験ではありますが、喫煙すると免疫能力が減弱することが示されています。マウスに1日4時間6週間、タバコの煙を曝露させると、ウイルスを退治するインターフェロン産生能を持つ白血球(Tリンパ球)の数が、3分の1に減少することが確認されています(※2)。これは、喫煙者の方がインフルエンザを発病しやすく、重症化しやすいという事実を説明する根拠となるものです。

 

【出典・参考文献】
※1 Kark JD, et al. : The New England Journal of Medicine. 1982; 307: 1042-6.
※2 Feng Y, Kong Y, Barnes PF, Huang FF, et al. Infect Immun. 2011; 79: 229-37.

第3章:受動喫煙は他者の命に関わる問題です

Q16:受動喫煙の問題は、法規制ではなくマナーで解決できるのでは?

A16:受動喫煙は他者の命に危険を及ぼすため、マナーで対応するような問題ではなく、一定の基準を定めて法律で規制すべき問題なのです。

受動喫煙は、その場では何も起こらなくても、肺がん、心筋梗塞、脳卒中など死に直結する病気を他人の体に引き起こすことが「確実である」と証明されています。アスベストや放射性物質などと同様に、一定基準を設けて法律で規制すべき問題であり、マナーで解決するような問題ではありません。

 

また、習慣的喫煙行為は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類で、「精神及び行動の障害」に分類されています。発がん性や多くの疾病リスクがあると知りながらも吸い続ける精神状態・行動は正常とは言えないのです。

いわゆる「ニコチン依存症」の状態であり、この状態でニコチンが切れてきた時には、残念ながらマナーを考えて理性的に行動できる人ばかりではありません。

 

実際に受動喫煙の問題をマナーで解決できた国はなく、ほとんどの国が受動喫煙防止法を定めており、55ヵ国ではバーの店内も完全禁煙になっています。

これまで日本には、受動喫煙を禁止する罰則付きの法規制がなく、受動喫煙防止対策に関するWHO の国別ランク付けでは最低ランクでした(※1)。2020年4月から改正健康増進法や、東京都受動喫煙防止条例が施行されても、1ランクアップするに過ぎないのです。

 

 

【出典・参考文献】
※1 WHO report on the global tobacco epidemic 2017.

Q17:受動喫煙の害は本当に証明されているのか?

A17:受動喫煙の害は、すでに国際的に確立されている科学的・医学的事実です。

受動喫煙が肺がん、心臓病や脳卒中など様々な病気の原因となることは、すでに国際的に確立されている科学的・医学的事実です。

受動喫煙の害を否定しているのは、もはやタバコ産業側だけです。受動喫煙の害に関しては、国際的に多くの研究結果が蓄積されており、もはや議論の余地はありません。

2006年の米国公衆衛生総監報告「The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke」では、下記のように結論づけられています(※1)。

 

 

日本でも、2016年に厚生労働省が国内外の1,600ほどの論文を解析した結果、受動喫煙と左記6つの疾病・病態との因果関係は確実であることが判明しています(※2)。

 

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/
※2 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou.html?tid=313655

Q18:受動喫煙の害など軽いのでは?

A18:受動喫煙の害は、とても看過できるようなレベルのものではありません。

受動喫煙は、煙が空気でうすめられるために害が少ないと考えられがちですが、受動喫煙の害は、とても看過できるものではありません。空気でうすめられたとしても、同じ場所で長時間、何回も呼吸をすれば、結局は大量の有害成分を吸い込むことになります。また、主流煙より副流煙の方が有害なことも明らかにされています。

 

主流煙とは、フィルターを通して喫煙者本人が吸う煙で、タバコを吸う時には周囲から酸素が引き寄せられ、燃焼温度が上昇し900度にも達するため、かなりの有害成分が分解されます。

一方の副流煙は、タバコを吸っていない時に先端から立ち上がる煙で、吸っている時と異なり酸素が引き寄せられず、燃焼温度は300~400 度と比較的低温であるため有害物質はあまり分解されません。

 

副流煙は、フィルターも通していないため、副流煙には主流煙の100 倍以上の濃度で含まれる発がん物質も存在します(※1)。100倍の濃度ということは、100倍の空気でうすめられて、ようやく主流煙と同じということです。

さらに、隣で吸っている人の副流煙を、不用意にそのまま吸い込んでしまうと、自分でタバコをくわえて、主流煙を100 回吸ったのと同じ量の発がん物質を、一気に吸い込んだのと同じことになるのです。

 

 

【出典・参考文献】
※1 厚生労働省. 平成11-12年度たばこ煙の成分分析について(概要) http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/seibun.html

Q19:家庭内の受動喫煙まで規制するのか?

A19:海外では多くの国々で、すでに家庭内での受動喫煙も規制されています。

現在ほとんどの国で、レストランやバーなどの公共空間は屋内禁煙です。海外では受動喫煙の問題は、すでに家庭内の問題にシフトしてきており、家庭内の受動喫煙によってタバコを吸わない家族の全死亡リスクが15~34%増加するという4件の論文がピアレビュー医学専門誌にも発表されています(※1~4)。

相手が家族であっても、他者により死亡率がこれだけ増やされることは、許容限度をはるかに超えています。特に立場の弱い子どもたちの命を守らなければなりません。

 

【出典・参考文献】
※1 Hills S,Blakely T,Kawachi I, Woodward A. Mortality among `never smokers` living with smokers: two cohort studies, 1981-4 and 1996-9. BMJ. 2004. 24; 328: 988-9.
※2 McGhee SM, Ho SY, Schooling M, et al. Mortality associated with passive smoking in Hong Kong. BMJ. 2005; 5: 330(7486): 287-8.
※3 Wen W, Shu XO, Gao YT, et al. Environmental tobacco smoke and mortality in Chinese women who have never smoked: prospective cohort study. BMJ. 2006; 19;333(7564):376.
※4 Hamer M, Stamatakis E, Kivimaki M, et al. Objectively measured secondhand smoke exposure and risk of cardiovascular disease: what is the mediating role of inflammatory and hemostatic factors? J Am Coll Cardiol. 2010; 29;56(1):18-23.

Q20:屋外でも受動喫煙防止対策が必要なのか?

A20:わずかな煙成分にも反応する喘息患者さんなどもいらっしゃいますので、屋外でも受動喫煙対策は必要です。

Mulcahyらによれば、
(1)無風状態の屋外で喫煙者1人の場合は、4メートル以内に近づくと、急性の健康被害(喘息発作など)が起きるタバコ煙濃度となっていたこと、

(2)風のある状態で喫煙者が複数なら、もっと離れていても健康被害が起きること、

(3)タバコの煙の臭いと発がん物質は、最低でも半径7メートルまで届くこと
が明らかとなりました(※1)。

 

【出典・参考文献】
※1 Mulcahy M, Evans DS, Hammond SK, et al.Secondhand smoke exposure and risk following the Irish smoking ban: an assessment of salivary cotinine concentrations in hotel workers and air nicotine levels in bars. Tob Control. 2005; 14: 384-8.

Q21:なぜ飲食店の店内を禁煙にする必要があるのか?

A21:来店されるお客様だけでなく、飲食店で働く労働者の命と健康を守るためです。

飲食業界の従業員の7 割近くは、受動喫煙の影響が大きな健康被害に発展しやすい年代の方たち(未成年、妊娠前の女性、中高年男性)です。飲食店も、従業員からすれば職場であり、受動喫煙は明らかな労働災害であるという認識が必要です。

現在、日本の飲食店労働者281万人中、22万人が未成年者(女子13万人・男子9万人)、65万人が20歳から39歳までの女性であり、飲食店従業員の約3人に1人は、未成年者と妊娠可能年齢の女性です。

また、98万人は様々な病気が起きやすい50歳以上の中高年層であり、飲食店で働く人の約3分の2は、受動喫煙の悪影響が出やすい年齢層となっています(※1)。

 

 

したがって、飲食サービス業界の屋内禁煙化を、他の分野より遅らせる理由は一切なく、むしろ一刻も早く屋内完全禁煙化を進める必要があります。改正労働安全衛生法(2015年6月1日施行)でも、職場での受動喫煙防止対策として、適切な措置を講ずるよう定められています。

さらに、法律でバーやレストランを完全禁煙にした国々では、受動喫煙がなくなるだけではなく、喫煙者の禁煙も進み、国民の健康増進に役立ったことを示す研究調査が数多く報告されています(※2、※3)。

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.stat.go.jp/data/roudou/report/2009/zuhyou/ft/a01800.xls
※2 Longo DR, Johnson JC, Kruse RL, Brownson RC, et al. A prospective investigation of the impact of smoking bans on tobacco cessation and relapse. Tob Control. 2001; 3: 267-72.
※3 Pearson J, Windsor R, El-Mohandes A, Perry DC. Evaluation of the immediate impact of the Washington, D.C., smoke-free indoor air policy on bar employee environmental tobacco smoke exposure. Public Health Rep. 2009; 124:134-42.

Q22:分煙ではダメなのか?

A22:多額の資金を費やして分煙にしても、受動喫煙を防ぐことができないからです。
   また、喫煙区域に立ち入る従業員・清掃員の健康も守れないからです。

密閉されているようでも、喫煙室に人が出入りするたびに、相当量の煙が人と一緒に漏れてしまいます。タバコの燃焼時に発生する粉じん(PM2.5)濃度を測定することで、飲食店内の受動喫煙の状況を把握することができますが、測定結果を解析した結果、たとえ多額の費用をかけて「完全分煙」にしたとしても、許容可能な粉じん濃度を実現することはできないことが分かっているのです(※1)。

 

 

また、喫煙可能区域では、非常に高濃度の粉じん汚染状態となっています。職員や来訪者の健康を守るためには、例外なき屋内完全禁煙を法律で定めること以外に現実的な解決方法はないことをWHO(世界保健機関)も強調しています(※2)。

 

乳幼児突然死症候群も、受動喫煙との因果関係は「確実」であることが判明していますが、家庭内で一応分煙にしたつもりでも、突然死のリスクは回避できていなかったことが示されています(※3)。

体重あたりの有害成分の量が大きくなってしまう乳幼児では、大人よりも害が強くでる可能性があることにも気を付けなければいけません。

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.nosmoke55.jp/data/1012secondhand_factsheet.html
※2 http://www.who.int/tobacco/resources/publications/wntd/2007/pol_recommendations
※3 Klonoff-Cohen HS, et al. JAMA. 1995; 273: 795.

第4章:新型タバコの有害性と問題点

Q23:電子タバコと加熱式タバコの違いは?

A23:厳密には違いますが、両者とも火を使わない(非燃焼式)新型タバコです。

電子タバコは、カートリッジ内の液体を気化させ、蒸気にして直接吸い込むもので、Vape(べイプ)とも呼ばれます。ニコチンを含むものと含まないものがあり、海外ではニコチンを含む電子タバコが従来のタバコの代用品として使用されています。

 

日本では、ニコチンは禁煙治療薬の成分でもあり、医薬品医療機器法(旧薬事法)の中で医薬品として劇薬指定を受けているため、ニコチンの溶液を直接吸わせることは許可されていません。

したがって、日本ではニコチンを含む電子タバコは違法であり、ニコチンを含まない電子タバコしか使用できないはずなのですが、ニコチンを含む液体カートリッジが海外から輸入され、違法に流通しているようです(※1)。

 

国内で認可されている電子タバコは、ニコチンを含まず葉タバコも使用していないため、「たばこ事業法」の規制を受けず、未成年でも購入可能でタバコ税の課税対象でもありません。

(写真) http://blogos.com/article/98506/

 

 

一方の加熱式タバコは、タバコの葉を加熱してニコチンを染み出させて吸うもので、従来のタバコと同様に当然違法ではなく、葉タバコを使用するため「たばこ事業法」の規制対象品で、未成年は購入できずタバコ税も課税されます。

タバコの葉を、燃やさずに加熱することから非燃焼・加熱式(Heat-not-burn:HNB)タバコと呼ばれており、ニコチンを含む電子タバコが許可されていない日本において、最近急速に普及してきている新型タバコです。

 

短いタバコの中心部に小さな金属製の加熱プレートを差し込み加熱するアイコス、細いタバコを本体に差し込んで周囲から加熱するグロー、タバコの葉の粉末が入ったカプセルに加熱した蒸気を通過させてニコチンを染み出させるプルーム・テックといった3方式の商品が流通しています(※3)。

 

 

電子タバコも加熱式タバコも、方式の違いはありますが、従来のタバコの代用品として、ニコチンを供給する装置として開発されました。日本では法律上ニコチン入りの電子タバコが認可されないため、加熱式タバコが主流となっています。

 

【出典・参考文献】
※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000lv0j.html
※2 http://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/hikanetsu_kenkai.pdf
※3 http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20171116_2.pdf

Q24:加熱式タバコなら有害性が少ないのでは?

A24:長期の追跡調査結果がないため、有害性が少ないとは言えません。

加熱式タバコは販売されて間もないため、有害性が少ないかは分かっていません。あるタバコ会社は、自社データから「9つの有害成分の量が約90%低減した」と宣伝していますが(※1)、「有害成分の量」と「有害性」は、まったくの別物です。

従来のタバコから発生する有害成分の量が多すぎるため、10%の量でも十分危険であり、有害性(病気の発生率や死亡率)が減少するかどうかは分からないのです。

 

 

また、9つの有害成分が90%削減されたというタバコ会社の自社データ自体が、信憑性に欠けるとの指摘も相次いでいます。いくつもの医学論文で、非燃焼性加熱式タバコの煙(エアロゾル)からも、かなりの量の有害成分が検出されたことが報告されています(※2、※3)。

 

 

さらに、血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation;FMD)により測定された血管内皮障害の程度は、加熱式タバコと従来のタバコでほぼ同等であったとの報告もあり(※4)、ニコチンの強力な血管収縮作用も加わり、心血管・脳血管イベントの発症リスクは同等以上の可能性があるのです。

 

【出典・参考文献】
※1 https://www.iqos.jp/
※2 Reto Auer, et al. Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes: Smoke by Any Other Name. JAMA Internal Med. 117:1050-52. 2017.
※3 K Bekki et al. Comparison of Chemicals in Mainstream Smoke in Heat-Not-Burn Tobacco and Combustion Cigarettes. J UOEH 39:201-207. 2017.
※4 Nabavizadeh P, Lui J, Havel CM, et al. Vascular endothelial function is impaired by aerosol from a single IQOS HeatStick to the same extent as by cigarette smoke. Tob Control. 2018;0:1-7.

Q25:加熱式タバコなら受動喫煙が生じないのでは?

A25:加熱式タバコでも受動喫煙は発生します。

受動喫煙は、副流煙だけで生じるものではありません。吸った人から吐き出される主流煙(呼出煙)によっても、受動喫煙は十分生じます。

加熱式タバコでは、呼出煙が見えづらく、臭いも少ないため分かりにくいのですが、吐き出された呼気にレーザー光線を当ててみると、従来のタバコと同様に吐き出された煙(エアロゾル)が周囲に大量に漂っている様子が確認できます(下写真、※1)。

 

 

加熱式タバコの煙にも、従来のタバコと同等量含まれる有害成分が多く存在しており(Q24 参照)、これらの一部は吸収されずに呼気中にそのまま吐き出されます。

また、化学物質にアレルギー反応を示す喘息患者さんなどは、わずかな煙の成分にも反応して、喘息発作などの体調不良を引き起こすことがありますので、加熱式タバコなら大丈夫というわけにはいかないのです。

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.tobacco-control.jp/heat_not_burn.htm

Q26:禁煙へのステップとして新型タバコが役立つのでは?

A26:新型タバコは、むしろ禁煙の妨げとなります。

加熱式タバコは従来のタバコよりも、ニコチンの血中濃度が上昇する可能性が指摘されています。加熱式タバコの煙を吸わせたラットのニコチン血中濃度は、通常のタバコの煙を吸わせたラットと比較し、ニコチン血中濃度が4倍も高かったとの報告があります(※1)。

ニコチンの吸収率を高める工夫がされているか、不純物が少ないため深く吸い込んでしまう可能性などが考えられています。

 

 

ニコチン血中濃度が高くなることで、ニコチンの依存が強まり禁煙できなくなる可能性もあるのです。実際、電子タバコは、従来のタバコより禁煙成功率が低いとのメタ解析結果も報告されています(※2、※3)。また、喫煙とまったく同じ動作であるため習慣が抜けず、むしろ禁煙の妨げになる可能性も指摘されています。

いきなり禁煙することは難しいと考え、禁煙へのステップとして新型タバコに変えてしまうと、さらに禁煙できなくなるかもしれないのです。

 

【出典・参考文献】
※1 Nabavizadeh P, Lui J, Havel CM, et al. Vascular endothelial function is impaired by aerosol from a single IQOS HeatStick to the same extent as by cigarette smoke. Tob Control. 2018;0:1-7.
※2 Kalkhoran S, Glantz GA. E-cigarettes and smoking cessation in real-world and clinical settings: a systemativ review and meta-analysis. Lancet Respir Med. 2016;4:116-28.
※3 https://tobacco.ucsf.edu/another-well-done-longitudinal-study-shows-e-cigs-depress-smoking-cessation

Q27:ニコチンを含まない電子タバコなら良いのでは?

A27:新型タバコは、健康面でも社会面でも様々な問題を引き起こしています。

ニコチンを含まない電子タバコも、無害ではありません。溶液を気化させるために使用するアルコール類が加熱により変性し、ジエチレングリコールや、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレインなど、多くの有害物質が発生していることが確認されています(※1、※2)。

一方、新型タバコの問題点は、実は健康面だけではありません。電子タバコでは、バッテリーの爆発事故が多発しています。使用中の爆発により、死亡事故まで発生しているのです(※3)。

 

また、ニコチンを含む電子タバコも違法に売買されています(※4)。さらに、ニコチンならまだ良いのですが、大麻や覚醒剤といった違法薬物まで混入された電子タバコ・リキッドが闇で流通し、逮捕される事件も発生しています(※5、※6)。

電子タバコは、液体カートリッジを気化させて吸引しますが、何を混ぜられても分からないため、薬物乱用の温床となっているのです。本人が、違法薬物の混入を知った上で使用する場合だけでなく、知らずに吸わされてしまう可能性もあり、大変危険な商品であると考えなければなりません。

 

その上、加熱式タバコに毒物(水銀)を混入し、知人を殺害しようと企てた殺人未遂事件まで発生しています(※7)。今後、このような事件が多発する可能性があり、非常に危惧されるところです。

また、加熱式タバコのカートリッジは従来のタバコよりも小さいため、乳幼児による誤飲事故が増加しており、国民生活センターから注意喚起が出されています(※8)。

 

以上のように、電子タバコや加熱式タバコのような新型タバコは、従来のタバコより危険な側面があることから、タイ、シンガポール、カンボジア、ブラジルなど新型タバコの製造・販売・輸入を禁止している国もあるのです(※9)。

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20100818_1.pdf
※2 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000066484.html(資料2)
※3 https://www.bbc.com/japanese/44149519
※4 https://www.sankei.com/west/news/180308/wst1803080049-n1.html
※5 https://www.huffingtonpost.jp/2018/08/08/stimulant-drug-liquid_a_23498777/
※6 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30427280S8A510C1000000/
※7 https://www.asahi.com/articles/ASL1B3CZVL1BPTJB006.html
※8 http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20171116_2.pdf
※9 https://toyokeizai.net/articles/-/230149

第5章:タバコと経済に関する様々な誤解

Q28:飲食店を禁煙にすると経営が悪化するのでは?

A28:世界では55ヵ国以上が、バーでも屋内禁煙ですが経営は悪化していません。

世界では55ヵ国以上が、バーも含めて屋内完全禁煙となっています(Q16参照)が、現在でも普通に屋内禁煙で営業を続けています。

各国で受動喫煙防止法が制定された後に、多くの国から経済的影響の有無について検討した研究が実施されました。2009年にIARC(国際がん研究機関)は、それまでに報告された86の論文を検討した結果、屋内禁煙化によってレストランやバーなどの売上に悪影響は出ないと結論づけています(がん予防ハンドブック第13巻、※1)。

 

 

ニューヨーク州は、今から約15年前の2003年からバー店内も禁煙になっています。はじめの数か月だけ売り上げはやや減少しましたが、その後は元に戻っています(※2)。

どうしても吸いたい人は来なくなるかもしれませんが、現在の日本人の喫煙率も18.2%ですので、国民の8割以上はタバコを吸いません。煙が苦手な方も来やすくなりますので、むしろ売上が増加するという報告も数多くあるのです(※1、※3)。

 

日本でも、2018年6月1日から串カツの大手チェーン店が店内禁煙化しましたが、前年同月比で客数は6月2.2%増、7月4.1%増、8月12.1%増と順調に増えました。売上高も、6月のみ2.9%減となりましたが、7月1.9%増、8月9.7%増でした(※3)。

 

【出典・参考文献】
※1 https://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/2009/IARChandbook13.php
※2 The Health and Economic Impact of New York’s Clean Indoor Air Act(July 2006)
※3 http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1809/05/news082.html

Q29:タバコ税は貴重な財源では?

A29:タバコ税以上の損失があり、経済的損失は年間4.3兆円と言われています。

医療経済研究機構による推計(※1)では、人々が喫煙や受動喫煙に関連した病気にかかって休職したり亡くなったりしたことによる労働力損失のコストは、2005年(平成17年)の一年間で2.37兆円です。

また、余分にかかった医療費や介護費(健康面のコスト)が1.77兆円、火災などによる施設・環境面のコストは0.19兆円に上り、合計すると年間で4.33兆円の経済的損失がありました。同じ年のタバコ税収は、2.24兆円でした。

 

以前は有害性や、各疾患との因果関係が明確ではなかったため、経済的損失が過小評価されていましたが、現在ではタバコは22の病気・病態を引き起こすことが明らかとなっています。タバコは税収よりも、損失の方が上回る商品なのです。

 

 

消費税を1%上げると、2兆円以上の税収になることが分かっています。その気になればタバコ税などなくても、国はやっていけるのです。

また、健康志向の高まりから、日本人の喫煙率も18%程度に低下してきており、減少したタバコ税収を補うために、国はタバコ増税を繰り返していますが、これ以上タバコ税収に頼ること自体が無理な状況となってきています。

 

そもそも、喫煙者の命と健康はお金に換えられるものではありません。国民の命と健康を害する製品を販売することによって得た税収を、「貴重な財源」と捉えることは健全な考え方とは言えないのではないでしょうか。

たとえタバコ税収が減少したとしても、喫煙率を低下させて国民の命と健康を守る政策を進めることこそが、国家の責務と言えるでしょう。

 

【出典・参考文献】
※1 医療経済研究機構.禁煙政策のありかたに関する研究~喫煙によるコスト推計~.2010

Q30:タバコ税を上げると喫煙率が下がり、タバコ税収は減る?

A29:これまで国がタバコ増税を行って、タバコ税収が減少したことはありません。

日本たばこ産業(JT)の前身は国営会社(専売公社)であり、現在も株式の三分の一を国(財務省)が保有している事実上の国有会社です。したがって、国が財政難になるたびに「困った時のタバコ税」と言われるようにタバコ増税を繰り返してきました。

また、増税の影響だけではなく、国民の健康志向が高まったこともあり、タバコの販売量は確かに過去20年で半減しましたが、タバコ税収は全く減りませんでした(※1)。JTの筆頭株主は財務省であり、タバコ税収が減らないように試算しながら段階的な増税をしているため、タバコ税収が減ることはありません。

 

 

そもそも、海外におけるタバコ増税の目的は、税収を増やすことではなく国民の命と健康を守ることにあります。なぜならタバコ販売価格の値上げは、国民、特に若者の喫煙率を低下させる最も効果的な政策であることが証明されているからです。

タバコの依存性や有害性が、ここまで解明されてきたのですから、そろそろ日本もタバコに対する国としての考え方を改めて行かねばならないでしょう。

 

 

【出典・参考文献】
※1 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d09.htm

Q31:タバコ税を上げると喫煙率が下がり、タバコ会社の経営が悪化する?

A31:必ず便乗値上げが許されるため、タバコ会社の収入が減ることはありません。

日本たばこ産業(JT)の筆頭株主は日本政府であり、タバコ増税の際には、タバコ本体価格の便乗値上げも必ず同時に認可されてきました。

例えば、2010年10月にマイルドセブン(現在のメビウス)は一箱300 円から410円に110円(1本あたり5.5円)値上げされましたが、そのうち増税分は70円、本体価格の便乗値上げ分が40円でした。

このため、増税後に販売数量が多少減っても売上高は増えており、税抜き売上高はほぼ横ばいで、少ない原料と労力で同じ売上げが得られるため、JTの営業利益は140億円の増益となっています(※1)。

 

 

タバコに関しては筆頭株主である政府が介入して税率だけでなく、本体価格の便乗値上げを承認するため、税収もJTの収入も減少することはないのです。

 

 

【出典・参考文献】
※1 日本たばこ産業.国内たばこ事業.業績報告書Vol.33.
※2 日本たばこ協会ホームページ:https://www.tioj.or.jp/data/pdf/180420_02.pdf

Q32:タバコ税を上げると喫煙率が下がり、葉タバコ農家や小売店が困る?

A32:農家や小売店の収入が減るとしても、それは増税が原因ではありません。

これまでも、時代の変遷にともなって、必要性・需要がなくなったり、有害性が判明したりしたことで、数多くの商品がなくなってきました。携帯電話の普及でポケットベルはなくなりました。アスベストは有害性が明らかとなり、製造・販売が禁止となりました。有害性が明らかとなったタバコの消費量が減ることは、ごく当然の出来事なのです。

また、農家や小売店の収入が減る原因は、意外にもタバコ会社にあるのです。国産葉タバコは、JT民営化後もたばこ事業法などにより、全量買取契約制で保護されており、価格は品質などを加味しても国際価格の3 倍強であり、葉タバコ農家は他の農家よりも優遇されてきました。しかし、1985年のJT民営化により、利益追求のため海外産の安い葉タバコに徐々にシフトし、タバコの原料として使用している国産葉タバコは2011年には全体の25%にまで減少しています。

 

また、JT の筆頭株主である国は、国内葉タバコ農家の転作支援に51億円の緊急対策事業予算を確保し(※1)、他の農作物への転作を奨励しました。

実際、全国の葉タバコ農家の約4割が転作に応じて、タバコの原料として使用される国産葉タバコは、さらに減少しています。これにより、JTは安い外国産の葉タバコをより多く使用することが可能となり、より利益を上げることが可能となりました。

 

さらに、2015年3月末には4つの国内タバコ工場を閉鎖し、社員の約2割にあたる1,600人規模のリストラを行いました(※2)。葉タバコ農家の収入や戸数が減少する原因は、増税などではなく、生産効率を上げて利益を追求するタバコ会社にこそあるのです。

一方、現在タバコの販売拠点は、小売店からコンビニエンス・ストアに移行してきています。年中無休で24時間営業のコンビニの方が、売る側にとっても買う側にとっても都合がいいからです。しかし、たばこ事業法では店同士の過当競争を避けるため、タバコ販売をライセンス許可制としており、住宅街なら半径200~300m、繁華街では半径25m以内に、2店舗以上の小売店開業を許可しないよう取り決めています。

 

タバコ会社は、販売効率の良いコンビニを優先して販売ライセンスを与えるため、結果としてタバコ小売店の経営が悪化し、廃業して行くのです。タバコ小売店の収入や店舗数が減る原因にも、利益追求型のタバコ会社経営が関与しているのです。

 

【出典・参考文献】
※1 農林水産省.平成24 年行政事業レビューシート.葉たばこ作付転換緊急対策事業
※2 日本たばこ産業.国内たばこ事業の更なる競争力強化について.2013 年10月30日

第6章:禁煙推進活動に対する誤解・詭弁・誹謗中傷

Q33:喫煙者がかわいそう。禁煙運動は喫煙者いじめでは?

A33:ニコチン依存症にさせてお金を取るタバコ会社こそ、いじめの張本人でしょう。

「タバコは嗜好品で、ご本人が好きで吸っている」との誤解があると、ご本人や周囲の方のために禁煙を勧めることが、いじめに感じるのでしょうか。

しかし、本人に自覚はなくても、喫煙者はニコチン依存にされて、やめたくてもやめられない状態なのです。むしろ喫煙者をいじめているのは、タバコ会社の方であると言うべきでしょう。

 

タバコを吸う方々は、ご自分では「好きで吸っている」と感じていても、実際には好きで吸っているわけではなく、ニコチンという薬物に“依存”が生じ、禁煙することができなくなったニコチン依存症の状態です。実際に、禁煙外来を受診する多くの患者さんたちは、禁煙したくても禁煙できないために病院を訪れています。

 

がんや心筋梗塞、脳卒中など命にかかわる重大な病気を発症する恐れがあることを知りつつ吸い続ける行為は、世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類第10版」(ICD-10)でも“精神及び行動の異常”の1つとして分類されています(※1)。

人をニコチンという薬物の依存にして一生お金を巻き上げるタバコ会社こそが、“喫煙者いじめ”の張本人と言えるかもしれません。

 

一方、受動喫煙を強いられている非喫煙者こそが、いじめを受けているとの訴えが多く出ています。職場のスモークハラスメントが、昨今話題となっています。

平成16年に喫煙者と非喫煙者、各300人(合計600人)を対象に、職場のスモークハラスメントに関するインターネット調査が実施されました。その結果、「たばこを吸っていいか」と上司に聞かれたら、「断りたくても断れない」と回答した人が6割に達していました(※2)。

 

実際、職場で受動喫煙による「スモークハラスメント」を受けて、化学物質過敏症を発症した男性が損害賠償を求めた訴訟に対し、平成21年3月に札幌地裁滝川支部から700万円の和解金勧告が出されています(※3)。

 

【出典・参考文献】
※1 世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類第10版」(ICD-10)
   http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/index.html
   http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html
※2 https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/310244.html
※3 https://roudou-mado.com/power-harassment/1720/

Q34:「多様性」を認めて、「寛容」な対応をすべきでは?

A34:「多様性」や「寛容」は、有害なものでも「何でも認める」ことではありません。

最近よく「多様性」という言葉を、「何でも認めろ」といった免罪符のように使用している人たちが多いように思えます。本来「多様性」という観念は、社会的弱者の立場に立ち、ハンディキャップや個体差を持つ方々も安心して生活できる社会を実現するために提唱されるべき概念です。

以前は、タバコが嗜好品として扱われた時代もありましたが、現在ではニコチンが脳に依存を生じることが、科学的に明らかとなりました。「やめたくてもやめられない」という喫煙者も多く、「タバコが好きな人もいる」といった「好き嫌いの問題」として扱うこと自体が、間違えであったことが分かってきたのです。

 

また、喫煙・受動喫煙ともに、健康被害がはっきりした今日では、もはや好き嫌いで論じられる問題でもなくなってきました。特に受動喫煙は、飲食店の労働者、妊娠中の奥さんや子どもたちのような社会的弱者に対して、一方的に危害を加えてしまうことから、単に好き嫌いの問題から論じるべきものではありません。

 

特に、喘息患者さんの中には、ごく微量の煙成分でも発作を起こしてしまう方々がいます。彼らのように、喫煙者と共存したくても、共存できない人たちもいるということを理解しなければなりません。彼らに「寛容になれ」と言われても無理な話なのです。

「多様性」という言葉は、本来このようにアレルギーなどの個体差やハンディキャップを持つような社会的弱者の立場に立って、語られなくてはなりません。

 

厚生労働省研究班のデータによれば、受動喫煙によって日本では年間15,000人が死亡しています(※1)。これは35分に1人のペースであり、年間の交通事故死(4,000人弱、※2)の4倍もの人々の命が、他人が吸ったタバコの煙で奪われているのです。

自分だけでなく他人の体にまで害を及ぼす行為を、無制限に認めることを「寛容」などとは、決して言わないのではないでしょうか。

 

【出典・参考文献】
※1 厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」平成27年度報告書
※2 https://www.npa.go.jp/news/release/2018/20181011001jiko3009.html

Q35:タバコは古くからある嗜好品で、人類の大切な文化では?

A35:歴史があっても正しいとは限らず、喫煙を正当化する理由にはなりません。

まず、喫煙行為が一般に普及したのは、西暦1600年前後のようで、せいぜい400~500年程度の歴史です。それ以前は、宗教的儀式などで限定的に使用されるのみであったようです。

タバコは、1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到達し、ヨーロッパに持ち帰ったことから欧米に広まりました。それ以前は、アメリカ先住民のインディアンたちが、宗教儀式の際に使用していたものであり、現在のような習慣的喫煙行為がなされていたわけではありません(※1)。

 

日本にタバコが持ち込まれたのは、室町時代の鉄砲伝来(1543年)と同時とする説が有力です。江戸時代に書かれた貝原益軒の養生訓には「たばこは近年、天正・慶長のころ外国から渡ってきた」と記されており、日本で喫煙が広まったのは江戸時代(1600年以降)といわれています(※2)。

また、紙巻タバコ(シガレット)が大量生産されるようになり、一般庶民に普及したのは20世紀になってからです。紙巻タバコ(シガレット)の歴史は、それほど長いものではありません。

 

一方、能動喫煙の有害性が判明したのは1960年代、受動喫煙の有害性が判明したのは1980年代です。それ以前には多く利用されていたとしても、害が明らかになった以上、規制がなされるのは当然です。

アスベストも、断熱材などとして多くの場所に用いられていましたが、発がん性が明らかとなり、現在では製造も販売も禁止されています。

 

歴史があるから文化として残すというのは誤った考え方であり、文化として後世に語り継がれて行くことに問題はありませんが、アスベストと同様に有害性が証明された以上、使用については制限して行く必要があるのです。

 

【出典・参考文献】
※1 たばこと塩の博物館ホームページ https://www.jti.co.jp/Culture/museum/collection/tobacco/index.html
※2 貝原益軒: 養生訓, 松田道雄訳, 中公文庫,1977年5月10日初版発行,2017年1月30日22刷発行,pp107-108.

Q36:人間には愚かな行動をする「愚行権」があり、「喫煙権」もあるのでは?

A36:喫煙する自由はありますが、最高裁でも「制限に服しやすい」とされています。

「権利」とまで言えるかは分かりませんが、「喫煙する自由」は認められています。認められているからこそ、これだけ有害であることが判明した現在でも、タバコの製造・販売は禁止されていないのです。

しかし、どんな権利や自由も他人を害してまで認められるものではなく、受動喫煙を生じる場合には認められません。現在は、医学研究の蓄積により、受動喫煙の有害性が明らかとなっており、他者が受動喫煙を受ける場合には、喫煙の自由は制限されなければなりません。

 

喫煙の自由については、最高裁昭和45年9月16日判決で「喫煙の自由は、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない」と判示されています。最高裁調査官の解説を追補すると、喫煙の自由は「権利」とまでは断定されておらず、仮に権利だとしても「制限に服しやすいものにすぎない」と解説されています(※1)。

これは昭和45(1970)年当時の判決ですが、現在ではタバコの依存性・有害性が明らかとなっており、WHOの国際疾病分類の中でも、習慣的な喫煙行為はニコチン依存症であると位置付けられていることから、医学的には喫煙は「権利」ではなく、「依存物質の摂取行動」であると認識されています。

 

一方、「自由や権利」に対する考え方は、日本国憲法の中でも規定されています。しかし、「自由と権利」には、必ず「責任と義務」が伴います。

憲法12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」とあり、公共の福祉に反する「自由や権利の濫用」は認められないことを定めています。

 

さらに、憲法13条には「国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、・・」と規定されています。喫煙は自分の体だけではなく、受動喫煙により他人の体まで害することが科学的に明らかとなっており、公衆衛生上の大問題で、「公共の福祉」に反しています。

したがって、単に自己責任では済まされず、他人への受動喫煙を伴う場合には、喫煙の自由は制限されることになります。

 

【出典・参考文献】
※1 ジュリスト469号253ページ. 労務事情2011年2月1日号

Q37:禁煙運動は魔女狩り的な独裁主義(ナチズム、ファシズム)では?
   禁煙運動はヒステリックな潔癖主義(ピューリタニズム)では?

A37:禁煙運動には差別的思想や潔癖主義など、まったく存在していません。

禁煙を推奨しようとする動きに対して「禁煙ファシズム」「魔女狩り」「ナチスと同じ」などの言葉を、週刊誌などで時々見ることがあります。これらの言葉は、喫煙を肯定したいと思っている一部の人たち(タバコ会社や喫煙者など)が、喫煙を擁護する自分たちの意見や表現が封殺されていると勘違いし、禁煙を推奨する人たちを批判する際に用いるようです。

しかし、喫煙を擁護する意見や表現が封殺されているでしょうか?それどころか、喫煙を擁護する意見が多すぎて、日本のタバコ対策は世界から大きく遅れてしまっている状況なのです。

 

むしろ、日本では長年に渡り非喫煙者の声が封殺され、受動喫煙で苦しんできた喘息患者さんなどがたくさんいるのです。喫煙率が18%程度にまで低下してきた現在でも、いまだに非喫煙者の意見が無視され、受動喫煙が野放しになっている職場が数多く存在しています。

有害性を理解した上で、他人の健康を害さずに喫煙する場合には、吸う自由があっても良いでしょう。しかしながら、受動喫煙の有害性が明らかになっている現在では、受動喫煙により健康被害を受けている人たちの存在を無視して喫煙することは許されません。

 

また、禁煙推進は、ピューリタニズムと呼ばれる潔癖主義・禁欲主義によって提唱されたわけでもありません。20世紀中旬に、喫煙が肺がんをはじめとする多くの疾患の原因であることが科学的に証明されたため、対策が始まったのです。

アスベストなどと同様に、以前は明らかでなかった有害性が証明された結果、喫煙及び受動喫煙防止対策が急速に進んできたのです。喘息患者さんなどは、受動喫煙により即座に苦しくなるため防止策を求めているのです。苦痛を訴えている方々を、「ヒステリック」などと揶揄することは、慎むべきではないでしょうか。

 

タバコには極めて強い毒性と依存性があることが証明されたことを受け、世界保健機関(WHO)は、FCTC(Framework Convention on Tobacco Control:タバコ規制枠組条約)という国際条約を制定しました。

現在、日本を含め180ヵ国以上が締約国となり、すでに条約は2005年2月27日から発効しています。これにしたがって、現在世界中でタバコを規制する法律が整備されているところなのです(※1、※2)。

 

【出典・参考文献】
※1 外務省ホームページ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/who/fctc.html
※2 WHO ホームページ http://www.who.int/fctc/cop/en/

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